“熊本”を感じる農の体験

“農”の営みを知ることは、その土地の個性に出会うこと。体験を通じて地域の営みや歴史を感じる農の体験は、観光の一歩先にある魅力に触れることができます。今回は有機農業の聖地・山都町で活動する「山都でしか」、人吉・球磨地方のめぐみを提供する「隠れ里ひとくまツーリズム」、全国から阿蘇の野焼きボランティアの受け入れ、草原の魅力を発信する「公益財団法人阿蘇グリーンストック」の活動をご紹介します。
・山都でしか(上益城郡山都町)
・隠れ里ひとくまツーリズム(球磨郡あさぎり町)
・阿蘇グリーンストック(阿蘇市)
山都町でしかできないことを。
山都でしか
九州の真ん中に位置し、阿蘇の外輪山と九州山脈の間に広がる山都町。中山間地で寒暖差の大きな立地を活かした安心・安全な農産物を生み出してきた地域です。なかでも約50年前から取り組んできた有機農業では、有機JAS認証事業者数が全国一を誇っています。阿蘇山の火山灰が混ざり合った土壌は、ミネラルが豊富で虫がつきにくいため、伝統的な農業を継承できたと言われています。
2021年には『2021SDGs未来都市』に選定され、さらに先導的な取組みとして『自治体SDGs モデル事業』(全国10都市)にも選出されました。そんな山都町で農業体験を企画・運営しているのが「山都でしか」です。


山都町で農の体験を企画する「山都でしか」は、農家や飲食店、デザイナーなどの有志で結成されたプロフェッショナル集団です。地域の“人財”や“食財”を生かすことを目的として2017年に設立されました。農業体験や食育活動、農泊、人材育成、イベント企画や動画制作、経営サポートまで山都町を舞台に多彩な活動を行っています。


季節に合わせて企画する食と農の体験は、農園での収穫体験や食事がセットになった「畑のレストラン」をはじめ、有機農業を軸とした多彩な農業コンテンツを開発。近年は、人気のサウナと組み合わせた企画も好評です。季節や天候、ニーズに合わせた柔軟な姿勢でツアーを企画するフットワークの軽さも魅力です。これまでに食品関連のバイヤーや新規就農希望者、自然や環境に関心がある消費者など、のべ500名以上の体験をコーディネート。「ただ畑のなかを歩くだけでもたくさんの発見がありますよ」と代表の八田祥吾(やつだしょうご)さんは笑顔で語ります。


「薪割りして、羽釜で炊いたご飯を美味しそうに頬張りながら、“また来たい!”と言ってもらえる瞬間がたまらなく嬉しい。仲間が畑でうれしそうに仕事をしている光景を見るのも幸せですね。このまちに生まれ育った僕自身も、ここから始まる町の未来にワクワクしています。これからも山都町だからできるチャレンジングな試みを仲間と一緒に実践していきます」。山都でしかできない経験を一人ひとりの心に届け続けることで可能性は無限に広がっています。
スポット名 | 山都でしか |
---|---|
住所 | 熊本県熊本市上益城郡山都町入佐2516 |
電話番号 | 070-8532-8011 |
URL | 山都でしか(外部リンク) |
備考 | 体験料金 3,000円から(応相談) ※季節や希望に応じて提案します。詳細はお問い合わせを。 |
写真提供:前田元嗣(bicolut)
心の“ふるさと”を感じる 四季折々の食と農の体験を
隠れ里ひとくまツーリズム
日本三大急流で知られる球磨川が横断する人吉・球磨盆地。四方を九州山脈に囲まれたこの地域では、年間通じて多彩な食と農の体験ができます。人吉・球磨地域の8つの町の食と農の体験を包括する「隠れ里ひとくまツーリズム」。九州名山の一つである「市房山」の樹齢千年を越える市房杉の中を歩く「森林セラピー」をはじめ、坐禅体験や山菜採り、いちごやブルーベリーの収穫、稲刈り体験など、四季折々の楽しみが待っています。


年間通じて多種多様な農の体験ができますが、中でも年中楽しめる山菜採りは大人も子どもも夢中になってしまうはず。その場で調理して食べる採れたての山菜は絶品です。わらびやたけのこ、栗など、収穫から調理まで普段はなかなか味わえない山のご馳走が満載です。
「『白菜から水が出てるよ!』と新鮮な野菜の切り口を見てよろこぶ声を聞いたり『こんなにたくさん採れたよ』と笑顔を見せてくれるのがうれしいですね」と話すのは、「隠れ里ひとくまツーリズム」の理事長を務める樅木徹郎(もみのきてつろう)さん。多彩な体験活動の中でも地域の小中学校の自然体験教育の拠点でもある「さんがうら」は、“家でもできる”をコンセプトにした多彩な体験活動ができます。人気のブロックで作る簡易ピザ窯や、大晦日に自宅で食べる年越しそば用の手打ちそば体験も好評だったとか。


施設長の小川聡(おがわさとし)さんは「ここは元々、学校だった場所。地域の人々の思い入れのある施設だから、皆さんに喜んでもらえるように心がけています」と話します。地元の人にも、観光で訪れた方にもゆたかな思い出を提供する、なくてはならない交流の場となっています。また、近年は地域の高齢者の見守りも兼ねて週2回の移動販売も開始したとか。地域のために尽力する、行動力に目を見張ります。

スポット名 | 一般社団法人 隠れ里ひとくまツーリズム |
---|---|
住所 | 熊本県球磨郡あさぎり町上南3205 |
電話番号 | 0966-47-0220 |
URL | 一般社団法人 隠れ里ひとくまツーリズム(外部リンク) |
備考 | HP参照の上、各施設にお問い合わせを |
人と自然の営みを知る 野焼きボランティア研修
阿蘇グリーンストック
毎年国内外から1700万人以上の人々が訪れる、言わずと知れた熊本を代表する観光地・阿蘇。最後にご紹介するのは、阿蘇を拠点に草原の維持や野焼き支援ボランティアの育成に力を注ぐ「阿蘇グリーンストック」が、毎年1月〜2月に開講している「野焼き支援ボランティア初心者研修会」です。


そもそも日本のような高温多湿の気候では、人が手を加えなければ草原はすぐに薮(やぶ)になり、10年も経てばあっという間に森と化してしまうとか。「草原を維持することは大変な労力を要します。では、なぜ阿蘇地域では草原を維持するための“野焼き”を続けてきたかというと、草原から得られる恵みは阿蘇の人々の衣食住をまかない、家畜を育てるための大切な資源だったからです。野焼きを継続し草原を連綿と維持し続けた結果、草原は生物多様性の宝庫となり、阿蘇独自の生態系が培われています」と話すのは、「阿蘇グリーンストック」の専務理事の増井太樹さん。なかには阿蘇にしか自生しないハナシノブやツクシマツモトなど希少種も含めて約600種が生育しているのだとか。


「野焼きは毎年3月に行われますが、3月の野焼きに備えて防火帯を整備する『輪地切り』や『輪地焼き』なども欠かせない作業なので、1年を通じて断続的な人手が必要です」と増井さん。これまで草原の長い歴史は阿蘇の人々だけでその役割を担ってきましたが、ライフスタイルの変化や高齢化によって担い手が減る中で野焼きを継続できない地域も少なくないそうです。「現在は1000人以上の野焼き支援ボランティアが、地域の方々の作業を手伝うことで草原は維持されています。熊本・福岡を中心に、全国から年間延べ2500人以上の野焼き支援ボランティアが関わっているんですよ」。


「実際に現場で野焼きに参加することは難しくても、草原のためにできることはたくさんあります。草原のことを知ってもらうこと、草原で育ったあか牛を食べて農家さんを支援すること、阿蘇で草原のアクティビティに参加することも草原の支援につながっています」と増井さん。研修を受け、後日届いた「野焼き支援ボランティア手帳」を眺めていると「わたしも阿蘇の草原を守っているんだ」となんだかとても誇らしく感じました。
スポット名 | 公益財団法人 阿蘇グリーンストック |
---|---|
住所 | 熊本県阿蘇市小里656−1 |
電話番号 | 0967-32-3500 |
URL | 公益財団法人 阿蘇グリーンストック(外部リンク) |
備考 | 参加資格:高校生以上で登山ができる程度の体力がある方であればどなたでも受講可能 受講料:1,000円(昼食代、資料代込) |

■熊本のお宿・ホテルを探すなら「STAYNAVI」

中城明日香
大分県生まれ、熊本市在住の編集者・ライター。
地域の出版社・編集プロダクションを経て、独立。
自然、暮らし、農業、教育、観光、ファッション、アートなど、“毎瞬”を楽しむ姿勢で幅広いジャンルの記事を手がける。仕事もプライベートも書くことが生業。