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パンフレット

旅のおすすめ記事最新トレンドから絶対外せない王道まで!熊本の楽しみ方をご紹介します

今こそ訪れたい、熊本の独立系書店

中城明日香

熊本市エリア セレクトショップ 古本
写真:独立系書店シーンの外観

紙のメディアがなくなると言われて久しいですが、熊本の街を見渡せば個人が経営する本屋、いわゆる“独立系書店”が増えています。“本が売れない”と言われる時代に、なぜ本を売ることをはじめたのでしょうか。そこには、本を通じて伝えたいものがある、本を愛してやまない店主の思いがありました。
自分の一歩外側にある世界に触れる、街の小さな本屋へ。友達に会いに行くように、本と店主のいる場所を訪ねてみました。


※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、施設へお出かけの際は、熊本県や各自治体が発表する最新情報、要請などをご確認のうえ、手洗いやマスクの着用、人と人との距離の確保など基本的な感染防止対策(新しい旅のエチケット)を徹底していただくようお願いします。

・scene
・my chair books
・本屋と活版印刷所

新旧の本の連なりが、文脈を生む新たなカルチャースポット

scene
写真:独立系書店シーンの外観
最初に訪れたのは、県庁通りに並ぶ雑居ビルの2階に2022年7月にオープンした「scene」。ともすると、通り過ぎてしまいそうなひっそりとした佇まいが印象的です。通りに面した窓ガラスに小さく“本”の文字。
写真:店内の様子

木の質感が際立つ余白のある店内は、ずっと昔からこの場所にあったかのような錯覚を覚えます。使い込まれた風合いの本棚に並んでいるのは、新刊と店主の高岡浄邦(たかおかじょうほう)さんの蔵書である古本。海外のアートブックから漫画まで幅広くラインナップしています。
一般的に古本といえば、内容も年代もランダムになるのが常ですが、元々高岡さんの手元にあった本だからこそ、新刊の副読本のように古本があり、古本の派生系のように新刊がある。本と本の間にゆるやかな文脈を感じます。

写真:店内の本棚

高岡さんが本を手に取るようになったのは、音楽に興味を持つようになった中高生の頃だとか。音楽雑誌の中に書かれていた和田ラヂヲや江口寿史が描く漫画と出合ったことがきっかけです。「2人ともれっきとした商業漫画家さんなんですが、音楽雑誌に載っていた漫画はすごく趣味的で、ラフな作品でした。その自由な感じが凄く良いなと思ったのがきっかけで、本屋の売り場の隅の方にあるような、ちょっと変わった作品に興味を持つようになりました」。

写真:本

決して口数が多い方ではない高岡さんですが、ひとたび本のことを尋ねると、自分の言葉で丁寧にレクチャーする姿勢が印象的です。「本はいろんな関わり方をしてくれます。好きな漫画の連作であれば、定期的に会う友達のように。新しい作家であれば異なる考え方に刺激を受けるように。久しぶりに読み返す本には、また違った部分が見えてきますしね。目の前の1冊との関わり方は、人との関わり方によく似ているな、と感じます」。

写真:本棚の一部の様子

オープン間もない頃から、ツーリングイベントやKADOKAWAの漫画雑誌「青騎士」のトーク&サイン会、「本を読む会」などイベントを企画しています。

「もの珍しさで来てもらえたら十分です。普段は本を読まない、買わない、という方でも、気軽に足を運んでもらえたら嬉しいです。本の見方がわからなければ気軽に聞いてください。趣味や興味のあることを伺いながら、面白さを感じてもらえる1冊を提案しますよ」と高岡さん。

写真:店舗の玄関の様子

試しに筆者もセレクトしてもらうことに。すると新刊2冊、古本1冊。オムニバスのインタビュー集から気鋭の作家のエッセイ集まで、内容も価格も異なる振れ幅のある3タイトルを選んでもらいました。店主独自の視点から選ばれた、まったく予想もしていなかった1冊を手に取るワクワク感がたまりません。そんな店主とのやりとりも含めて、今の自分を体現する1冊や気づかなかった本の魅力に出会えるのも独立系書店の醍醐味なのです。

スポット情報(2023年1月13日現在)
スポット名 古本と新刊 scene(シーン)
所在地 熊本市中央区神水1-2−8 輔仁会ビル202
営業時間

月~木曜/18:00~22:00(祝日の場合11:00~19:00)、

金~日曜/11:00~19:00
休み 第1・3金曜、その他不定
HP https://scene-books.com/

社会に潜む問題に触れるきっかけになりたい

my chair books
写真:my chair booksの外観

熊本市西区の商業施設「243」の中にオープンした本屋「my chair books」。1階には、アウトドアアイテムや洋服を取り扱うショップと、花屋、本屋が併設され、2階ではレストランが営業しています。元々、上乃裏で書店を営んでいた店主の藏原広人(くらはらひろと)さんが、約3年の無店舗期間を経て、この場所に新たに店を開きました。今、本屋を再開されたのはなぜでしょうか。

そこには、本と人が触れ合える“場”に対する藏原さんの思いがありました。「コロナ禍で改めて“場”の大切さを実感しました。この場所を通じて、社会のさまざまな出来事を話すきっかけが生まれたらいいなと思っています」。

写真:店内の様子

店内を見渡すと、一番に目に飛び込んでくるのは美しい装丁の絵本たち。アート感覚で部屋に飾って置きたくなる本や絵本をプレゼントに買っていく人も多いとか。また、市民コレクティブSakumagが刊行する「We Act!」をはじめ、ZINE(個人の趣味で作る雑誌)の取り扱いも多数。さらに、店内の一角には音楽コーナーもあり、ここでしか出合えないレアな音源をはじめパンクやフォークロアまで幅広く取り揃え、わずか4坪の空間ながら盛りだくさんの内容です。

写真:店主の藏原さん

実は、藏原さんは2つのバンドを掛け持ちする現役のバンドマン。「昔から音楽と本のつながりは深いものなので、同じ空間にあることは僕にとっては珍しいことではありません。例えば、作家のイ・ランさんのように、音楽活動と作家活動を並行して行っている人もいますよね。イ・ランさんは、本もCDも両方の作品が並んでいます」。多岐に渡る表現活動をする作家がどんなものを書いて、どんな音楽を奏でるのか、一気に興味が湧いてきます。「店頭に並べてあるほとんどの音源は、店内で視聴することができるものばかりなので、気軽にリクエストしてくださいね」と藏原さんは、にこやかな笑顔を見せます。

写真:本を持っている様子

本棚の目立つ位置には、人文書やフェミニズムをテーマにした本も多いことに気づきます。「音楽シーンの日常を例にすると、ライブハウスに来るお客さんも、ステージに立つ人間も男性が多い。音楽を続けていた人でも、ライフステージの変化で音楽を続けられなくなるのもほとんどが女性です。そういうことを目の当たりにする中で、極端に男性が多い現状を変えたいと思うようになりました」。
日常のすぐそばにある差別やジェンダーへの疑問に意識を向けながらも、一言では答えの出ない問題だからこそ、本を読み続けるのだとも。「僕の中でもっとも身近で、大きな問題です。そこを少しでも更新するために、日々、本を読み続けています」。そういうと、手元にあった本のページをそっとめくりました。
 

写真:絵本の陳列

「読書は食べ物と同じで、基本的には毎日必要なものだと思っています。人によって必要な量は変わると思うけれど、スーパーで野菜を買うように、気になったら手に取ってみて欲しいです」と藏原さん。

「最初は、“表紙がかわいい”とか“色がきれい”という理由で十分。自分で見て、触れることが大事です。インターネットでは、検索することでちょっと知っていることは教えてくれるけど、まったく知らないことは入口が分からないので教えてもらえないから。まずは本が多くの人の目に触れることが大事で、そのために本屋がある。僕は、そんな風に思っています」。

スポット情報(2023年1月13日現在)
スポット名 my chair books(マイチェアブックス)
所在地 熊本市西区田崎2-4−33 1F
営業時間 10:00~19:00
休み 火曜
HP https://mychairbooks.ocnk.net/

自分の知らない自分に出会う、読書体験を届ける

本屋と活版印刷所
写真:本屋と活版印刷所の外観

天草市本渡の商店街の一角にある「本屋と活版印刷所」。16坪ほどの店内には屋号の通り、本屋と活版印刷所が混在しています。「今はWEBデザイナーさんも一緒にシェアし、2階には古本を扱うギャラリー兼カフェ『本と活版印刷所の屋根裏』も営業しています」と話すのは、本屋店主の永田有実(ながたゆみ)さんです。
本棚にはミシマ社を中心に、永田さんがセレクトする「読んでほしい1冊」が、ところせましと並んでいます。

生まれ故郷である天草でフリーランスのデザイナーとして活動する永田さん。ある日、SNSで流れてきたミシマ社のマークが目に止まり、不意に手に取った1冊には「その時に考えていたことや、求めていた言葉が詰まっていたことで、本の素晴らしさに改めて気づかされました」と言います。
 

写真:実行委員の永田さん

毎年秋に天草で開催される「アマクサローネ」の実行委員を務めている永田さんは、熊本地震後に「読めば心が落ち着く“本”という存在をとても頼りにしていた」という自身の読書経験と、「天草や地域の人たちが豊かに生きるために、本の存在やミシマ社のやろうとしていることは参考になる」という確かな信念のもと、2016年からは「アマクサローネ」の企画の一環として、ミシマ社の編集者を招いたトークショーや本の販売を始めました。

写真:長島裕介さん

そんな中、永田さん自身が本屋をスタートすることになったきっかけは、同じ「アマクサローネ」の実行委員で、熊本市内で活版印刷所を営んでいた長島裕介(ながしまゆうすけ)さんが、拠点を地元天草に移す際に「一緒にお店をやらない?」と声をかけたのが始まりだとか。「天草は、400年以上前から元々活版印刷で本を作っていた歴史を持つ地域。そんな地域の歴史をつなぐ“場”を作るのは意味のあることだと賛同しました」。

写真:内観の様子

一方でデザイナー業の傍ら「残っていくものの仕事がしたい」と、ふるさとの天草を伝えていくための絵本の自主制作をライフワークとして続けていた永田さん。
「本屋と活版印刷所」は、いくつもの偶然が重なり合って作り上げられてきたものですが、その背景に目を向ければ、ごく自然の成り行きであったかのようにも思えます。
「何も知らないところから始めた本屋ですが、私にとって本とは、自分の中にある知らない自分を見つけてくれる存在で、知らない自分を引き出してくれます。ここで店を開け続けることで、知らない自分を見つけるきっかけになれたら、と思います」と永田さんは話します。
 

写真:本

写真は「この本を読んで“作る”ためのモチベーションの源を見つけた」という永田さんが、最初に手に取ったミシマ社の本「小商いのすすめ」。先の読めない混迷期を豊かに生きるために、かつての商店街のように補い合いながら生きることの重要性を説く1冊です。

「身の回りの人間的なちいさな問題を、自らの責任において引き受けることだけが、この苦境を乗り越える第一歩になる」と謳う著者の哲学は、それぞれが持ち寄ったカルチャーがゆるやかに循環する「本屋と活版印刷所」の今の姿、そのものでした。

スポット情報(2023年1月13日現在)
スポット名 本屋と活版印刷所
所在地 天草市中央新町19−1
営業時間 10:00~17:00
休み 日・月曜
HP https://booksandletterpress.com/

中城明日香

熊本県在住のフリー編集者・ライター。タウン誌や編集プロダクションを経て独立。現在はタウン誌の編集・執筆を中心に、暮らし全般からファッション、インタビュー、観光パンフレット、コラム執筆など幅広く活動中。モットーは“街と人を結ぶこと”。取材の現場で感じた空気感まで、余すことなくとらえる姿勢で取材に臨んでいます。

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