★熊本県立大学コラボ企画★ 【苓北町】ここでしか体験できない!「欲張り婆ちゃんぽん」&農泊でピザ作り

熊本の“まだ知らない”を探しに行こう! 大学生たちが県内を巡って見つけた、地元の魅力を6回にわたってお届け!
第4弾は天草・苓北エリア。 楽しいことに目がないシュン、写真が趣味のタマミ、食べることが大好きなサキ、好奇心 旺盛なフク、元気いっぱいのモリの5人がとっておきのスポットを取材してきました!
天草諸島の北端にある苓北町。豊かな自然と海に囲まれたこの町で出会ったのは、夫婦が営むちゃんぽん屋「爺&婆」と、農家の思いが詰まった「福田果樹園」の農泊体験。
さらに温泉や西海岸の夕景も加わり、“暮らしに溶け込む旅”を味わうことができました。
苓北へ愛情がたっぷり、夫婦が営むちゃんぽん屋 ~爺&婆~



熊本市内から車で3時間。のどかな田園風景の中に、ぽつんと現れる一軒の食堂「爺&婆」。じろうさん(84)とあきこさん(81)夫婦が営む、ちゃんぽんが美味しいと評判の食堂です。
「苓北に食べる場所を残したい」――その思いから始めたちゃんぽん屋には、ふたりの人生と地域への愛情が詰まっています。
温かなもてなしと、特産・岩牡蠣入り“欲張り婆ちゃんぽん”


今回案内された小上がりの個室には、ひ孫さんが描いた可愛らしい絵が飾られていて、足を踏み入れた瞬間から、まるで親戚の家に遊びに来たようなあたたかさに包まれます。
「お店の名刺は孫が作って、Instagramは子どもが運営しているんです」と笑顔で話す あきこさん。食堂のさまざまな場所で、温かい家族の絆を感じることができるのも、この場所だからこそ。

メニューにはユニークな名前も!迷わず選んだのは「欲張り婆ちゃんぽん(岩牡蠣入り)」。
岩牡蠣は苓北町の特産で「夏ガキ」とも呼ばれ、熊本県で初めて生食用として認められたブランド牡蠣です。

注文を終えると、あきこさんが「今日はゴーヤの和え物とプリンですよ」とお通しを出してくれました。
お通しは全メニューに無料で付くそうで、「毎日違うんです」と微笑む声に心が和みます。

厨房で「ジュワ~」っと、美味しそうな音を響かせるのは、この道40年以上という調理 担当のじろうさん。 「ちゃんぽんのダシは豚骨と鶏ガラから取っているんですよ」と話しながら鉄鍋を振る姿には、年齢を感じさせない力強さがあります。
実はじろうさんは広島出身。けれど、素朴で海のきれいな苓北町に魅かれて移り住み、この地で家庭を築いたといいます。
今では苓北町の歴史や文化を誇らしげに語り、地域そのものを自分の故郷のように愛している姿が印象的でした。






「いただきます!」
ひと口すすれば、野菜の甘みと魚介の旨味が広がり、濃厚なのに後味はすっきり。
さらに別添えの柚子胡椒を溶かせば、ピリッとしたスパイシーな風味へと味変ができま す。 「この柚子胡椒、実はご近所さんの手作りなの。この町は何でも助け合いなんです」と声を弾ませるあきこさん。
生まれも育ちも苓北の彼女にとって、この町の魅力を伝えることは誇りそのもの。

岩牡蠣にはレモンを絞っていただく。ぷりっとした食感と濃厚な旨味が口いっぱいに広がります。
「お盆で牡蠣の時期は終わり、9月からは扇貝(ひおうぎがい)になりますよ」と教えてくれました。旬ごとに変わる味もまた楽しみです。
人との出会いを紡ぐ、爺&婆のちゃんぽん

最後にお店の生きがいを尋ねると、あきこさんは「お客さんとの会話が楽しいから」と即答。じろうさんも「いろんな人が来るから」と笑顔で続けました。
ふたりにとってお店は、料理を出すだけの場所ではなく、人との出会いを楽しみ、町の魅力を伝え続ける“暮らしの舞台”。
「最近は観光で訪れる方も増えました。せっかく苓北に来てもらった人たちに、ご飯を食べられる場所を残し続けたいんです」と語る姿には、地域を大切にする思いがにじんでいました。


爺&婆のちゃんぽんは、ただの食事ではなく、苓北の人々の暮らしに触れる体験そのもの。
ここで過ごす時間が、旅人にとって苓北を身近に感じるひとときになるでしょう。
| スポット名 | 苓北給食センター 爺&婆 |
|---|---|
| 住所 | 天草郡苓北町苓北町内田230-9 |
| 電話番号 | 0969-35-1783 |
| 営業時間 | 11:00~14:00、17:00~20:00 |
| 休み | 不定休 ※インスタグラムで要確認 |
| 駐車場 | 5台 |
| 関連リンク | 苓北給食センター 爺&婆(Instagram) |
畑から食卓へ!苓北・福田果樹園の農泊体験記



爺&婆で心温まる時間を過ごしたあと向かったのは、昭和47年から続く「福田果樹園」。 「安心できる美味しい食を届けたい」と無農薬栽培にこだわった野菜や果実を栽培する農家で、こちらで1泊2日の農泊を体験します。
農泊とは、 農山や漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験などを 楽しむことで、福田果樹園では14年前から農泊の受け入れを行っているそう。 農泊中に体験できるプランは様々で、今回私たちはパッキングや種まきなどの農作業と収穫した野菜を使ったピザづくりにチャレンジしてきました。
1日目 福田果樹園でふれる、農業と人のつながり
■到着——家畜と堆肥が育む畑の恵み

苓北の山あいにある福田果樹園に着くと、まず出迎えてくれたのは元気いっぱいの大きなニワトリたち。
実はこの鶏たち、出荷できない野菜や販売で売れ残った野菜を食べて育っているんです。そこで産まれた卵は、シフォンケーキなどの加工品や、農泊に訪れたお客さんの食事に活用されているそう。畑と鶏、そして食卓がつながる、あたたかな循環がここにはありました。


荷物を部屋に置いた後、案内されたのは農業倉庫。農園の代表・福田さんが、自家製レモ ンシロップで作る爽やかなレモンスカッシュを振る舞ってくれました。 一緒にテーブルを囲むのは、この果樹園で働くスタッフの人たち。苓北の自然に魅かれて 横浜から移住し農業を学ぶ人、ボランティアとして関わる地元の人など、その背景もさまざま。ここでは農業を通じて人と人がつながり、互いの思いが重なり合っているよう。
時折吹き抜ける涼しい風と、福田さんやスタッフとの何気ない会話が心地よく、思わず笑顔になります。
■パッキング作業開始

休憩が終わると、いよいよ農業体験がスタート。
福田果樹園では、朝収穫した野菜や果物をその日のうちにパッキングして、地元天草をは じめ熊本市内の飲食店などに出荷しているそう。 今回はそのパッキングのお手伝いです。




倉庫の中は鮮やかな野菜でいっぱいで、見ているだけで胸が高鳴ります。
福田さんの指導の下、私たちもパッキング作業に挑戦。約2時間の作業でしたが、いろいろな野菜に触れながらの体験はとても新鮮で、初心者でも安心して楽しめます。気づけば、あっという間に時間が過ぎていました。
■代表・福田智興さんに聞く、農業への思い…
就農して、跡を継ぎ今年で24年目の福田さん。無農薬栽培の野菜が評判を呼び、 今ではフレンチや和食など、県内各地の有名店からお声がかかるほどです。 そんな福田さんが無農薬栽培を始めたのは“ある手紙”がきっかけだったとか。そこには 「届いたみかんを子どもが箱を開けてすぐ口に入れました」という喜びの声が書かれていたのですが…。

けれど同時に福田さんの頭に浮かんだのは「農薬は大丈夫だろうか」という不安。
「食べものを作っているのに、食べられないものを作っているのではないか」――
そう気づかされ、「美味しいだけでなく、皮ごと食べられる安心・安全な農作物をつくらなければ」と無農薬栽培への挑戦を決意したといいます。
とはいえ、無農薬への切り替えは簡単ではなく、最初の3年間は収入がほとんどない事を覚悟して挑戦したけれども、実際には想像以上に厳しい状況が長く続いたといいます。
自然災害の影響も受けやすく、続けるかどうか迷うこともあったそうです。
それでも「家族の支えがあったから、ここまでやってこられました」と笑顔で語る姿に、農業への強い思いと温かさを感じました。
苓北の日常に溶け込む温泉と夕景
■下田温泉「夢ホタル」で癒やされる

福田果樹園の農泊体験では、温泉も楽しめるようになっています。 地元・苓北町にある「麟泉の湯」と、車で15分ほどの場所にある下田温泉「夢ホタル」 から選ぶことができ、私たちは今回「夢ホタル」を選びました。
※「苓北町温泉センター 麟泉の湯」についてはコチラをご覧ください。

「沸かさず、薄めず、循環なし」の下田温泉は、名湯と呼ばれるだけあって特別な湯でした。掛け流しの天然湯に身をゆだねると、全身にじんわりと染みわたり、思わず笑顔に。最高のひとときです。
こんな温泉が日常にあるなんて、このエリアでの暮らしの豊かさを改めて感じた瞬間でした。
| スポット名 | 天草下田温泉 湯本の荘 夢ほたる |
|---|---|
| 住所 | 天草市天草町下田北1366-1 |
| 電話番号 | 0969-42-3311 |
| 入浴時間 | 男性露天、女性露天ともに 15:00〜22:00 |
| 関連リンク | 天草下田温泉 湯本の荘 夢ほたる(外部サイト) |
■鬼海ヶ浦展望所で味わう、空と海の夕景

温泉で体を癒したあとは、夕日をめざして西海岸へ車を走らせます。
向かったのは「鬼海ヶ浦展望所」。日本夕日百選にも選ばれている場所です。

この日はあいにくの曇り空。水平線に沈む夕日は見られなかったけれど、空と海が柔らかく染まっていくマジックアワーのひとときは、十分に心を満たしてくれました。
| スポット名 | 鬼海ヶ浦展望所(きかいがうらてんぼうしょ) |
|---|---|
| 住所 | 天草市天草町下田北2256 |
| 駐車場 | 15台 |
野菜が主役の食卓——福田家でいただく農家ごはん
■福田家の夕食——50本オクラのお好み焼き
温泉と夕日を楽しんだ後は、福田家での夜ご飯。家族の皆さんと一緒に食卓を囲みます。



テーブルには、福田果樹園で採れた新鮮な野菜を使った料理がずらりと並びます。
オクラのお好み焼き、ズッキーニのチーズソテー、きゅうりとコリンキーのサラダ…。 「オクラのお好み焼きには、なんと50本のオクラを使っているのよ」と、この日腕を振るってくれた福田さんのお母様がにこやかに教えてくれます。出荷できない形の野菜も、台所では 立派なごちそうですね。
■出荷できない野菜を生かした加工品づくり


夕食の席では、福田果樹園が手がける加工品の話題に。
食卓に登場した“人参カレー味のドレッシング”をはじめ、ジャムやジュース、ケーキな ど、手掛ける加工品は、出荷規格に合わない野菜や果物が使われているとのこと。時には シェフとのコラボレーションもあり、農家の知恵と工夫が“新しい食のかたち”として広が っているようでした。

野菜であふれる農家の食卓は、どこか懐かしく、温かい時間になりました。
2日目 畑から食卓へ——農業体験とピザ作り


朝8時からはいよいよ農作業体験のスタート。
農家さんは普段からこんなに早くから活動しているのかと思うと、その暮らしぶりに頭が下がります。
■カラフルな畑で野菜の収穫

収穫体験では、ピザ作りに使う野菜を畑で採ることに。足を踏み入れた畑には色とりどりの野菜が広がり、見ているだけで胸が弾みます。
今の畑にはオクラ、ナス、ズッキーニ、バジル、モロヘイヤ、ツルムラサキ、空芯菜、ピーマン、万願寺唐辛子、紫とうがらし…実に多彩な野菜が育っていました。その種類は年間100種類にも上るといいます。


「福田果樹園の特徴は、畑がカラフルなことと、海風でミネラルが入ることなんですよ」と福田さん。さらに「ここの野菜は甘いと言われることが多いんです」とも話してくれました。 実際に収穫したばかりの紫とうがらしを生のままかじってみると、辛さよりも先にじんわりと甘みが広がり、驚かされました。
無農薬だからこそ、採れたてをそのまま口にしても安心できる——その安全さと自然な甘さを、体験を通して実感することができました。
■土づくりからの種まきに挑戦

続いては玉ねぎの種まき体験。今回は2種類の玉ねぎに挑戦しました。
まずは畑を覆っている長いマルチ(黒いビニール)を剥がす作業から。
破れないように慎重に引っ張るのですが、思った以上に力が要り、汗がじんわりとにじみます。

鍬で土を掘り、種をまく溝をつくっていく作業。鍬の重みは想像以上で、振り下ろすたびに腕に響きます。
福田さんに「もっと深く」「ここで力を抜いて」とアドバイスを受けながら、なんとか形になっていきました。

そしていよいよ種まき。腰をかがめながら同じ動作を繰り返すうちに、体力がどんどん削 られていくのを実感しました。ほんの数時間でも息が上がるのに、農家の方はこれを毎日、当たり 前のように続けているんですね。農家=力仕事のイメージが強いですが、種まきのように “繊細方さと丁寧さ”が求められる作業も多いことに気づかされました。

痩せた土地を家畜の堆肥で肥やし、海風の恵みを取り入れながら、地道な作業を積み重ねる苓北の農業。その努力の背景を知ると、昨日の食卓でいただいた野菜が格別に感じられたのも当然だと思えました。
食べ物の一皿の裏には、苓北の暮らしと人々の忍耐、そして細やかな手仕事が息づいている――そう実感できた体験でした。
■カラフル野菜のピザ作り

農作業のあとは、待ちに待ったピザ作り体験。 福田さんのお母様の指導のもと、生地からこねていきます。



トッピングには朝に収穫したオクラ、ピーマン、イタリアナス、紫とうがらし、ズッキーニ、バジル、モロヘイヤ、トマト…。畑からそのまま食卓へ届いた野菜をふんだんにのせると、カラフルで見た目にも楽しい一枚になりました。

焼き上げたピザを頬ばると、野菜の甘みと香ばしさが広がり、自分たちで収穫したからこそ味わえる特別な美味しさに笑みがこぼれます。

生地をこね、収穫した野菜をのせて焼き上げる時間は、福田家の食卓に迎え入れられたかのようなあたたかさにあふれていました。
その光景には、苓北の暮らしがしっかりと息づいていました。
| スポット名 | 福田果樹園 |
|---|---|
| 住所 | 天草郡苓北町志岐1355-2 |
| 電話番号 | 0969-35-0859 |
| 民泊料金 | 1泊2食、体験付き/11000円(税込) |
| リンク | 福田果樹園(外部サイト) |
暮らしに溶け込む旅、苓北

爺&婆のちゃんぽん、福田果樹園の農泊体験、温泉や夕日…。
一見ばらばらに思える時間が、実は“苓北の暮らし”としてゆるやかにつながっていた。 爺&婆のおふたりは「苓北に食べる場所を残したい」と願っておられます。 「苓北の良さは一日ではわかりません。長く過ごすことで、本当の魅力が見えてくるんです」——そう語る福田さんは、農業を通して苓北に人を呼び込み、移住へとつなげたいという夢を抱いています。
ひとりひとりが思いを持ち、人と人とのつながりを大切にして暮らす町——苓北。 その温かさに触れる旅こそが、この町の魅力なのだと、改めて感じられました。





