山鹿灯籠まつりと、灯籠師の物語

8月15日・16日に開催される「山鹿灯籠まつり」。 夏の夜を幻想的な光が包む山鹿のまちの風物詩で、金灯籠を頭に載せ、千人の女性たちがゆったりと「よへほ節」に合わせて舞う「千人灯籠踊り」が見どころのひとつです。今回は山鹿の街が誇る祭りの起源と歴史、そして、それを支えてきた灯籠師の存在に迫ります。
山鹿灯籠まつり イベントガイド・駐車場情報など
熊本県の北部に位置する山鹿市は、宿場町として栄えた歴史ある街。菊池川流域の物流の拠点であることから、独自の文化が形成されてきました。「山鹿灯籠まつり」の起源は、「菊池川一帯に立ち込めた深い霧に進路を阻まれた景行天皇のご巡幸を、山鹿の里人が松明を掲げてお迎えした」という言い伝えに由来するとか。景行天皇を祀る神社に献上し続けた松明は、室町時代には山鹿灯籠の祭りとなり、江戸時代には旦那衆と呼ばれる実業家たちが和紙工芸の技を競い合うようになったといいます。
まつりのフィナーレを飾るのは「千人灯籠踊り」ですが、もうひとつの見どころが、山鹿市内一帯を飾る「奉納灯籠」です。神社への奉納はもちろん、山鹿市内や八千代座などにも展示され、訪れる人々を魅了します。緻密な造形と優雅な佇まいの奉納灯籠がまち全体を彩るので、こちらもぜひチェックしてみて下さい。
灯籠まつり期間中の主なイベント(例年:8月15日〜16日開催)
★奉納灯籠の展示(15日〜16日)
山鹿市内各所(27カ所)に、灯籠師たちが制作した奉納灯籠が展示されます。
<展示場所の一例>
・八千代座ロビー
・山鹿灯籠民芸館
・豊前街道沿いの商店・公共施設など
※町中を歩くだけで、様々な灯籠作品に出会えます。
15日:13時~20時/16日:10時~20時
★花火大会(8月15日 夜)
菊池川河川敷にて、灯籠とともに夜空を彩る大輪の花火が打ち上げられます。
幻想的な山鹿の夜を一層引き立てます。
★千人灯籠踊り(8月16日 20時〜)
会場:山鹿小学校グラウンド
「千人灯籠踊り」が始まったのは、昭和30年ごろのこと。灯籠を頭に載せた女性たちが「よへほ節」に合わせて一糸乱れぬ舞を披露します。
※例年、周辺は大変混雑するため、早めの移動・事前の駐車場確認がおすすめです。
特別観覧席チケットの販売もあり詳細はこちら(千人灯籠踊り特別観覧席チケット案内)
まつりの見どころ
★夜の豊前街道の灯り
商家が軒を連ねる豊前街道では、夕暮れから灯籠が灯され、まち全体が幻想的な雰囲気に包まれます。
★八千代座での演舞披露(例年あり)
国の重要文化財・八千代座では、山鹿灯籠踊りの演舞や和楽器の演奏など、まつりに合わせた特別プログラムが行われることも。事前予約が必要な場合もあるため、最新情報を公式サイトでご確認ください。
アクセス・駐車場情報
★クセス
公共交通:熊本市内からバスで約1時間半
車:九州自動車道「植木IC」より約30分
★駐車場(臨時含む)
山鹿中学校をマップで確認する
山鹿市総合体育館をマップで確認する
サンチェリー工業をマップで確認する
※15日のみ
山鹿消防署をマップで確認する
山鹿市立めのだけ小学校をマップで確認する
※環境整備料として車1台1,000円が必要です。
※山鹿市総合体育館・サンチェリー工業からは無料シャトルバスが運行されます(例年)
灯籠に宿る山鹿の心に、触れる場所「山鹿灯籠民芸館」
山鹿の灯籠師たちが精魂込めて仕上げた奉納灯籠。まつり期間中、山鹿の街中に飾られる緻密で繊細な奉納灯籠の造形は、灯籠師たちの鍛錬の賜物です。
ここ「山鹿灯籠民芸館」では、歴代の灯籠師の貴重な作品群を間近に見ることができます。

山鹿灯籠の魅力や技術の奥深さを伝える拠点として、訪れる人々を迎え入れる「山鹿灯籠民芸館」。かつて銀行として使われていた趣ある建物を活用し、館内には歴代の名工たちが手がけた精緻な作品がずらりと展示。金灯籠の制作工程や使用する道具の解説、そして灯籠まつりの歴史背景に至るまで、五感を通して山鹿の伝統文化を体感することができます。
山鹿灯籠は、和紙の産地として栄えた山鹿で、室町時代から受け継がれてきた伝統工芸です。
木や金具は使用せず、和紙だけで作られる山鹿灯籠の特殊な技法や歴史は、国の伝統工芸品に指定されています。作品によっては内部構造まで精巧に表現されており、細部にまで込められた職人の技と美意識が光ります。美しさや迫力を表現するため、独自の寸法で制作されているのが特徴です。
灯籠師は、一人前になるまでに10年はかかるという道。その礎を築いたのが、灯籠師・松本清記さんです。館内には、清記さんゆかりの道具や作品や、人柄が窺える資料などが集められた小さな部屋があります。精巧な表現はもちろんのこと、その穏やかな人柄も相まって、今も多くの灯籠師たちの指標となっています。

「山鹿灯籠の文化を絶やしたくない」という強い想いから、清記さんは『灯籠教室』を開き、門戸を広げました。かつての灯籠師は世襲制で、技術は門外不出とされていたそうですが、古い慣習にとらわれず、その技術を伝えてくれたからこそ、山鹿灯籠は続いているのかもしれません。
職人の技が詰まった灯籠の数々は、ただの祭り道具ではなく、その一つ一つが、まちの歴史と職人の魂を宿した“祈り”そのものです。
| スポット名 | 山鹿灯籠民芸館 |
|---|---|
| 住所 | 山鹿市山鹿1606−2 |
| 電話番号 | 0968−43−1152 |
| 営業時間 | 9:00〜18:00 |
| 休み | なし |
| 料金 | 民芸館入館料/一般:300円、小学生・中学生:150円 共通入館料/一般:730円、小学生・中学生:370円 |
| 備考 | 共通入館料では、民芸館の見学と、八千代座及び八千代座管理資料館を見学できます。15名以上の団体は割引あり |
灯籠師を支えた湯の力 人々を癒やす、町と心の湯「さくら湯」
そんな清記さんが、制作の日々の中で欠かさず訪れていたのが、山鹿温泉「さくら湯」です。今から約390年前の江戸時代に、肥後細川藩初代藩主細川忠利公が山鹿の温泉を気に入ったことから生まれた湯。1870年から1872年(明治3年から5年)にかけて行われた大改修で、市営温泉へと生まれ変わって以来、山鹿市民に愛されてきました。

紙一枚、線一本の違いが作品の品格を左右する灯籠づくりにおいて、心と身体を整えることは、何よりも重要だったはず。清記さんにとっては、創作の前の大切な“儀式”でもあったのかもしれません。

1898(明治31)年、「道後温泉」の棟梁・坂本又八郎氏を招いた改修により、唐破風を備えた玄関が設けられました。1973(昭和48)年には、再開発ビル建設のため解体されたものの、市民から復活の声が高まり、2012(平成24)年に江戸時代の建築様式を再現した九州最大級の木造温泉として再建されました。
歴史が織り成す重厚な雰囲気の中で、やわらかな湯を気軽に楽しめる日帰り温泉として、今も地元の人々と多くの観光客に愛され続けている「さくら湯」。朝の湯に身を沈め、立ちのぼる湯けむりの先に見えてくるのは、創作に向き合う覚悟と集中を支えてきた、もうひとつの「場」としての湯の存在です。
華やかな祭りの背景には、黙々と自らの技を磨き、作品を通して祭りに奉納してきた灯籠師たちの存在があります。山鹿灯籠まつりには、山鹿のまちに生きた人々の暮らしや信仰、そして灯りに託された誇りが、静かに受け継がれています。
| スポット名 | 山鹿温泉 さくら湯 |
|---|---|
| 住所 | 山鹿市山鹿1−1 |
| 電話番号 | 0968−43−3326 |
| 営業時間 | 6:00〜0:00(最終受付23:30) |
| 休み | 第3水曜 |
| 料金 | 入湯料/大人(中学生以上):350円、子ども(3歳以上小学生以下):150円、 障がい者(大人):150円、障がい者(子ども):80円 |
中城明日香
大分県生まれ、熊本市在住の編集者・ライター。
地域の出版社・編集プロダクションを経て、独立。
自然、暮らし、農業、教育、観光、ファッション、アートなど、“毎瞬”を楽しむ姿勢で幅広いジャンルの記事を手がける。仕事もプライベートも書くことが生業。



















