地球の鼓動を体感!熊本で出会える身近な鉱物

2024年7月、熊本県美里町で新種の鉱物が発見されました。熊本県の古称「火の国」の伝承にちなんで「不知火鉱(しらぬいこう)」と命名されました。新種の鉱物の発見により、県内の鉱物に注目が集まっています。熊本には風土を感じる石たちに出会える場所があります。そこで今回は、悠久の時が刻まれた石スポットをご紹介します。
- 津志田自然公園(緑川)
- 白滝公園(飯干川)
- 立神峡里地公園

お話を伺ったのは、宇城市松橋町の「博物館ネットワークセンター」の廣田志乃(ひろたしの)さん(写真左)と、高田聖也(たかだせいや)さん(写真右)です。毎年、県内各地で開催する自然観察会「フィールドミュージアムへ飛びだそう!」で石の観察会を開催しています。
幼い頃に活発だった阿蘇の火山活動をきっかけに、身近な岩石に興味を持ったという廣田さん。その好奇心の先にあったものが身近な岩石だったそう。
ちなみに、「石」や「岩」という呼び方は俗称的なものであり、科学の分野ではいずれも「岩石」と呼ぶのだとか。

「岩石を科学的に識別するのは、初心者にはなかなか難しいですし、鉱物を探すのはなおさら難しいもの。だからこそ科学的な分類にとらわれず、地球の活動を感じる身近な自然としてその存在を楽しむことが大事だと思います」と廣田さん。
岩石や鉱物は、地球の動きの中で自然と出来上がるもの。現在進行形で形成され続けてはいるけれど、岩石によっては地中深くの熱と圧力があってこそできるものでもあり、私たちが生きているこの空間では存在しえないものもあります。しかもその時間軸は、何億年と遡ります。

では、初心者はどのように楽しめばよいのでしょうか。
「1000年前のヘイアンチョウ時代からやってきた妖精・おじゃる丸が主人公のアニメ『おじゃる丸』。そのなかの登場人物である小学校2年生のカズマくんは、石を愛でる人の理想形だと思っています。好きな石を拾ってきて、その序列や名前を自分の中で定義を決めて、愛でている。あれが石を愛でる人の究極の形だと思います。学術的なところを勉強したい方は研究を続ければいいけれど、あえて専門的なことは横に置いておいて、自分なりに考え、観察することもとても大事なことです」。
まずは学術的な知識にとらわれず、自分が感じたように仲間分けをしてみること。そこで湧いてきた自然に対する興味関心を大切に、自分なりのものの見方や観察眼を培うことの重要性を廣田さんは語ります。
地学の時間軸は、何億年単位。私たちが生きている日常とは異なるもの。河原の石を知れば、その土地の成り立ちが見えてきます。土壌の多くが阿蘇の巨大噴火による堆積物で形成されている熊本は、自然観察には最高のフィールドなのです。
スポット名 | 博物館ネットワークセンター |
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住所 | 宇城市松橋町豊福1695 |
電話番号 | 0964-34-3301 |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
休み | 月曜、年末年始 |
九州山地の誕生の背景を知る石に出会える場所
津志田自然公園(緑川)

最初にご紹介するのは、熊本市隣接の甲佐町を流れる緑川流域にある「津志田自然公園」(通称乙女河原)。ここは、町に申請をすれば無料でキャンプができる、言わずと知れた人気スポットです。

こちらは緑川流域で廣田さんが採取した「チャート」と呼ばれる石。ハンマーで叩くと火花が飛ぶくらい硬い石です。本来は、深海底でつくられる地層の一部であり、その正体は小さな小さな海の生き物・放散虫の殻が海底に堆積してできたものです。チャートの中の放散虫の化石から地層が形成された時代がわかる重要な岩石だとか。

他にも多様なルーツを持つ石が出るところが緑川流域の特徴です。つまり、緑川の源流となる九州山地が大規模な地殻変動によってできた場所だということが推察されます。

緑川流域には、阿蘇の火山由来の石もあります。こちらは阿蘇火山の巨大噴火によって発生した大規模な火砕流が作った「溶結凝灰岩」です。降り積もった火山灰や軽石が熱で溶けてくっついており、自重で潰れたことでできた自然の縞模様が目を引きます。

緑川流域の岩石の中には、宝飾品として用いられたり、誕生石としても人気のある赤いガーネット(ざくろ石)が混ざっているものがあるとか。九州山地の生誕にも由来する多種多様な岩石が混在する「津志田河川自然公園」は、気軽に石の観察を楽しめるスポットです。
スポット名 | 津志田自然公園 |
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住所 | 上益城郡甲佐町津志田 |
泳いで、遊んで。豊かなフィールドで自然観察
白滝公園(飯干川)


近年「博物館ネットワークセンター」が主催する自然観察会でもよく利用しているという五木村の「白滝公園」。

熊本市内から車で1時間半〜2時間ほどかかりますが、適度な日陰と遊歩道が整備されていて、駐車場やトイレも整備されているため過ごしやすくおすすめのスポットです。

白滝公園の周囲を流れる飯干川一帯は、カラフルな石が多いのが特徴です。
「自然観察会で大切にしていることは、石の特徴を観察すること。石の中の粒のサイズや特徴をフローチャートで確認しながら、参加者が自分で石の名前を識別できるように促しています」と廣田さん。

かつては参加者自身が採取した石を観察し、オリジナルな名前をつけるという実験的な試みをしたこともあったとか。「もちろん、学術的な正解は用意してはおきますが、“おにぎりに似ているからおにぎり石!”という発想でいいんです。それぞれの“観察眼”を養うことが大切なのです」。

ちなみに美里町の話題の新鉱物「不知火鉱」は、蛇紋岩に含まれているとか。不知火鉱のように、一見しただけでは見分けられない鉱物もあります。
「岩石を一見するだけではまったくわかりませんが、飯干川では2016年には日本鉱物科学会によって日本の国石に選定された翡翠(ひすい)が採れると言われています」と高田さん。
何気なく目にしている河原の石ですが、実はその中には貴重な鉱物が隠れていたり、ここに至るまでの壮大な時間が流れていると思うと本当に興味深い存在です。
スポット名 | 白滝公園 |
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住所 | 球磨郡五木村乙 |
巨大な岩壁を眺める抜群のフィールド
立神峡里地公園

最後にご紹介するのは、熊本市内から車で1時間ほどの距離にある氷川町の「立神峡里地公園」です。ここは、紀元前1万年前の旧石器時代の石器類が出土されており、古くから人々が住んでいた場所として知られています。周囲には大和朝廷にゆかりのある前方古円墳が5つも築造されている歴史の古い地域です。

古生代の石灰岩が浸食されてできた高さ75m、幅250mの「肥後空滝」や「肥後赤壁」と呼ばれる岩壁は見事。壮大な自然を見下ろす長さ71m、高さ20mのつり橋「火の国橋」はスリル満点!

園内では、釣りなどの川遊びや、遊歩道でハイキングなどを楽しめるほか、キャンプサイト、ログハウスなどの宿泊施設も完備されているので、豊かなフィールドを満喫できるスポットです。

立神峡の一帯は、昔から火打石が採れることでも有名な地域で、熊本の古称「火の国」の由来となった地と言われています。光沢のある石肌が印象的な火打石。石と石をこすり合わせると硫黄のような匂いがするのが特徴です。「立神峡里地公園」の管理棟では、無料で火打石体験ができます。

スポット名 | 立神峡里地公園 |
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住所 | 八代郡氷川町立神 |
駐車場 | 120台 |
電話番号 | 0965−62−1543(8:30〜17:00 ※火曜日を除く) |

最後に、石はその土地の成り立ちを知るための手がかりになるものです。ともすると学術的な混乱を招くこともあるので、拾った石は元あった場所に返すか、自宅の庭に破棄するようにしましょう。今回ご紹介したスポットは、いずれも岩石の観察をしやすい場所ですが、川と隣接しているので安全面には十分配慮してくださいね。

中城明日香
大分県生まれ、熊本市在住の編集者・ライター。
地域の出版社・編集プロダクションを経て、独立。
自然、暮らし、農業、教育、観光、ファッション、アートなど、“毎瞬”を楽しむ姿勢で幅広いジャンルの記事を手がける。仕事もプライベートも書くことが生業。