時代を越えても「カワイイ」!熊本の伝統工芸品「きじ馬」
人吉の代表的な工芸品の一つ「きじ馬」。人吉を訪れると、必ずと言っていいほど、その姿に出会います。子どもたちの遊び道具として生まれてから800年以上の長い歴史を持つきじ馬を、昔ながらの製法で守り作り続ける「住岡郷土玩具製作所」の皆さんにお話を伺いました。
「きじ馬」の始まりは、平家の落人の生活費
住岡郷土玩具製作所
赤・黄・緑の色鮮やかなきじ馬は、大小さまざまなサイズがあり、いくつか並べて飾ると、さらにかわいさが増し、きじ馬コレクターもいるほど。誕生した当初は、子どもたちが上に乗って遊ぶことができるサイズだったようですが、時代の変化と共にお土産としての需要が増え、購入しやすい手ごろなサイズが作られるようになったと言われています。
今回、お話を伺った「住岡郷土玩具製作所」のアトリエには、指先ほどの小さなものもあり、思わず、「かわいい!」と叫んでしまうほどでした。
きじ馬が生まれたのは、今から800年以上前。平安時代と言われています。壇ノ浦の戦いに敗れ、五家荘に逃げのび、そのまま人吉・球磨方面にも住み続けた平家の落人が、生活の糧として木材を削り、色を塗り、玩具として地域の祭りで売っていた…と言い伝えられています。
「諸説ありますが、京都に思いを馳せながら、大文字焼きの“大”の字を頭頂部に書いたと言われています。最近は、伊勢神宮の式年遷宮で、造営に使う木材を運ぶ車“御木曳(おきひき)”がきじ馬に似ていることから、ゆかリがあるのでは…とも」。三代目・住岡孝行さんが教えてくれました。
他にも、平家の落人が隠れ住んだと言われる「大塚地区」の「大」の文字を記したという説もあり、歴史が長いだけに、どれが真実かは分からないということ。ただ、九州の小京都と呼ばれる人吉で、このきじ馬が生まれ、今でも作り続けられることは、意味があることのように感じます。
下書きも設計図もない、きじ馬作りは職人の勘で行われる
きじ馬作りは世襲制のため、代々受け継がれた家のみが作ることができるそうで、「住岡郷土玩具製作所」は、初代・喜太郎さんが、親戚から受け継いだものだそうです。
「初代が手先の器用な人で、仏師として仏壇の修復などを行う傍ら、さまざまな玩具を作っていたんです。それが結構な人気だったようで、初代発案の玩具の一つ“紙ピストル”の権利と親戚が持つきじ馬の権利を交換したと聞いています」。1915年に郷土玩具製作所として創業して以降、住岡家では、一家総出できじ馬づくりを行うようになったということです。
写真は初代が手がけたきじ馬。顔料で色付けされています。
現在、「住岡郷土玩具製作所」できじ馬作りに携わっているのは、写真中央の二代目の忠嘉さんと奥さまのるいこさん、そして、長女の久美子さん、次男で三代目の孝行さんです。
忠嘉さんと孝行さんがきじ馬の削りを行い、塗りはるいこさんと久美子さんが担当しています。
「祭りの前や、海外からの注文が入った時など、私たち子どもも総出できじ馬作りを行うんです。何度もその様子が新聞に載りましたよ」と久美子さんは、当時を振り返ります。
設計図や下書きはなく、材料となる木材の反りや歪みを活かしながら「よき(刃巾が狭く細長い斧)」で荒削りをします。
技術だけでなく、使用する道具も、創業時から受け継がれるもの。
南京鉋で細かな削りを行う孝行さん。
銑(せん)を使い、きじ馬のお腹側の面取りを行う忠嘉さん。
完成したきじ馬の土台。
下地の白を塗り、乾燥してから黄・赤・緑の色つけを行います。
指先ほどの小さなきじ馬は、竹串を使って目を描いて仕上げます。
きじ馬と同じく、800年以上受け継がれ、女の子に贈る習わしのある「花手箱」も、同所で作られています。サイズは10段階あり、美しい椿の花が施されています。
一つひとつ、丁寧に塗り上げられていきます。
緑を守ることが、きじ馬の存続に繋がる
きじ馬に用いられる木材は、当初は「ホオノキ」を使用していましたが、現在は桐などの雑木をメインに使用しているそうです。切り出した木材をすぐに使用するかというとそうではなく、乾燥に4〜5年間もかかるというから驚きです。
「乾燥を完璧に行っていないと、完成したきじ馬にカビが生えたり、割れが起きてしまいます。子どもが使うことを前提にしたきじ馬は、安心安全なものでないといけません。そのため、乾燥時に防腐剤を使用することはありませんし、天然木のみを使っているんです」。
つまり、きじ馬作りに欠かせないのが、この材料の確保ということですが、実は、存続を脅かせる問題に直面していると言います。「エネルギー問題による森林の伐採があり、それによってきじ馬の材料になる雑木が不足しているんです。そのため、これまでのような大型のサイズのきじ馬が作れなくなっています」と孝行さん。
「きじ馬を未来に残していきたいけれど、このままでは希少なものになってしまいます。そうではなく、当たり前のように世の中に出したいというのが本音。一人でも多くの人が、緑を守っていくことの大切さに目を向けてくれたら嬉しいです」と続けます。
郷土玩具を作り続ける住岡さん一家は、まずは「触れてほしい」という想いから、アトリエや、人吉球磨地方の伝統工芸テーマパーク「人吉クラフトパーク石野公園」でのきじ馬・花手箱の絵付体験や、学校などへの出張教室などを積極的に行っています。
さらに、チャレンジ精神いっぱいの孝行さんは、さまざまなブランドとのコラボきじ馬を生み出したり、新商品も企画中ということ。まずは手に取ることで、郷土玩具の魅力を感じてみてはいかがですか。
スポット名 | 住岡郷土玩具製作所 |
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住所 | 球磨郡錦町西無田の原104-2 |
電話番号 | 0966-38-1020 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
休み | 不定 |
駐車場 | 4台 |
URL | 住岡郷土玩具製作所(Instagram) |
備考 |
※絵付体験は電話での要予約 その他の「きじ馬」取扱店 |
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今村ゆきこ
熊本生まれ、熊本育ち。地元タウン誌「タンクマ・モコス」を経て独立。熊本愛強めのライター&エディター。熊本第一号の温泉ソムリエ&温泉ソムリエアンバサダーとして「くまもっと湯美人」を監修するなど、温泉愛もかなり強め。コロナ禍でソロキャンプの魅力に気づき、休日には愛犬と「温泉+キャンプ」を楽しむ日々を送る。
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