冬の阿蘇でぽかぽか。内牧温泉で町湯めぐりを

今村ゆきこ

阿蘇エリア 温泉 銭湯 癒し 日帰り温泉
写真:大阿蘇温泉の様子

明治30年にはじめて、かんがい用井戸の掘削中に温泉が噴出したことからはじまる内牧温泉の歴史。町には宿屋が建ち、夏目漱石や与謝野鉄幹・晶子夫妻などの文豪が訪れたことでも知られる温泉街になっていきます。また各地域にも「町湯」が誕生し、この町湯が地域の人たちにとっての日常の湯となっていきました。
年月が流れた令和の今、数は減ってしまいましたが、今なお地域の人たちに愛される町湯。温泉の心地よさと一緒に、地元の人たちとのふれあいを楽しみ、レトロな佇まいを愛でる町湯めぐり。湯のお裾分けをいただくような気分でお楽しみください。

・雲海薬師温泉
・宝湯
・大阿蘇温泉

人と人をつなぐ、黄金色の湯

雲海薬師温泉
写真:雲海薬師温泉の外観

町湯とは、地域の人々が通う公衆浴場のことで、その名の通り、それぞれの地区の方が多く通っています。多くが、湯船のみのシンプルなつくりで、せっけんやシャンプーなどもなく、マイアメニティを持ってくるのが町湯のスタンダードです。

写真:ご主人の浜潔さん

「近頃は、熊本地震災害やコロナ禍で遠ざかっていた遠方からのお客さんに、また足を運んでもらうようになったね」。そう話すのは、内牧で町湯と共に暮らしてきた『雲海薬師温泉』のご主人の浜潔さん。「叔母が温泉宿を昭和26年にオープンし、その後、日帰り温泉施設として町湯に建て替えたのが平成5年。叔母の亡き後、引き継いで運営しています」。通ってくる常連さんとは顔見知りで、一緒に湯浴みを楽しむことも。ツヤツヤとした肌は、まさに温泉の恩恵です。
「お客さんと話すのが楽しくてね。みなさんに続けてほしいって言われているからがんばらないと!」。この想いを胸に、息子さんたちの力も借りながら、日々、町湯の営業をしているそうです。

写真:「雲海薬師温泉」内の様子

『雲海薬師温泉』は「ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉」と2種類の美肌泉質を併せ持つお湯で、夜のうちに清掃された湯船に、朝一番に注がれたお湯はにごりが強く、湯船に新しい湯が湛えられるにつれて透き通ってくると言います。

写真:「雲海薬師温泉」の内湯
取材にお邪魔した12月。オープン間もない男湯には朝日が注がれ、温泉が黄金色に輝いていました。
写真:更衣室の様子
写真:桶に水を汲む様子

源泉かけ流し、加水も加温もしないため、湯量で湯船の温度を管理。熱めの湯が好みの人には、浸かった時の体を包み込む熱がたまらないはず。色や温度など、自然の恵みだからこそ、その時その時の湯との出会いを楽しむのも、湯巡りの楽しさです。

写真:「新町薬師堂」
湯上がりには、温泉の隣にある、『雲海薬師温泉』の名前の由来でもある、内牧温泉の神様と言われる『新町薬師堂』へお参りして、次なる目的地に向かいましょう。
スポット情報(2023年12月22日現在)
スポット名 雲海薬師温泉
住所 熊本県阿蘇市内牧39
電話番号 0967-32-0116
営業時間 10:00〜21:00(入館終了20:35)
※12/31・1/1は10:00〜18:00
料金 大人300円、小学生以下100円
※1歳未満無料
休み 無休
設備 ・シャワーあり(男女各1)
・アメニティなし(販売あり)
URL 雲海薬師温泉(ホームページ)

地区の町湯を譲り受け、割烹×町湯で今につなぐ

宝湯
写真:「宝湯」の外観
「割烹」の文字に、一瞬、間違えてしまった?と勘違いしそうな、上質な佇まいの中にあるのが、『温泉割烹 がね政』が営む町湯『宝湯』です。
写真:内湯のみの女湯
内湯のみの女湯

地区の町湯として利用されていたこの場所に、割烹料理の店を移転したのが昭和57年。その際に、一緒に町湯も受け継いだそうです。当時は、他の町湯のように簡易的な浴室だったところ、30年ほど前にリニューアル。立派な岩風呂に湯が湛えられた、ワンランク上の町湯に生まれ変わりました。

写真:湯船の様子

ところが、熊本地震で温泉が止まってしまい掘り直すと、源泉温度が下がってしまい40.7℃に…。加水・加温をしない、新鮮なお湯を存分に味わってほしいと、湯船に注ぐ湯量を増やして調整しているそうで、湯口からはドバドバと湯が注がれ、贅沢にかけ流しされています。

写真:男湯の露天風呂
男湯の露天風呂
写真:男湯の内湯
男湯の内湯

「少しぬるめのお湯が好きな方におすすめしています。ゆっくりつかっていただくと、体の芯からポカポカしてきますよ」とご主人。また、『宝湯』では、入浴料400円(3歳〜小学生は200円)にタオルとボディソープ、リンスinシャンプーの無料貸し出しがあるのも嬉しい心遣いです。

写真:露天風呂

泉質は「ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-硫酸塩温泉」で、ハリと潤い肌に導くと言われる美人の湯。長湯をしながら、ゆっくりと美肌成分を取り込むのがおすすめです。

写真:「宝湯」の裏口の看板

最後に、「みなさんがよく見られているこの看板は、実は裏口なんです(笑)。玄関は反対側になります。空き地だったところに立派な道ができたので、慌てて看板を立てました」。入口が分かりにくい…と言われるそうですが、そういった理由があったのです。どちらにも駐車場はあるので、「車からあまり歩きたくないな…」という方は、本当の入口へ。立派なアプローチが待っていますよ。

スポット情報(2023年12月22日現在)
スポット名 宝湯
住所 熊本県阿蘇市内牧186-1
電話番号 0967-32-1563
営業時間 10:00〜21:30(入館終了21:00)
料金 大人400円、小学生以下200円
※3歳以下無料
休み 無休
設備 シャワーあり、アメニティ無料貸し出し
※割烹は完全予約制での営業中

100年以上続く、鉄分豊富な良泉

大阿蘇温泉
写真:「大阿蘇温泉」の外観

朝7時から入浴ができるとあって、温泉に入って仕事へ…という常連客も多いという『大阿蘇温泉』。「父が今年1月に亡くなり、資料などが残っていないため正確なことは分からないのですが、明治の頃から町湯として営業しながら、父が生まれた昭和18年前後には温泉旅館も営業していたようです」と4代目の美愛子さん。時代の変化と共に、湯治宿や合宿を受け入れる宿として変化しながら、地域の人々の町湯として歴史を重ねてきたと言うことです。

写真:料金表
写真:更衣室の様子

現在の建物は昭和50年代に建てられたもので、レトロな雰囲気もあり、県外のお客さんも増えてきたそう。脱衣所には、入湯料を入れるボックスが残っていたり、温泉成分で茶色になった浴室からも、情緒を感じる佇まいです。

写真:温泉の様子

こちらのお湯、「ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-硫酸塩泉」という内牧温泉に多い泉質ながら、成分の濃さは今回紹介した町湯の中では一番濃く、鉄分を多く含むため、湯口には鉄の成分がこべりつくほど。もちろん、加水・加温をせず源泉が掛け流しされています。

写真:湯口から流れる温泉

「成分が濃いので、毎日の清掃と、週に1回は管の掃除をしています」。そう話すのは、美愛子さんの伯父の民人さん。「3代目がとにかく人情の人で、お客さんはみんな友達という感じ。みんな、けんちゃんけんちゃんって遊びにきてくれていました。そんなお客さんたちに迷惑をかけたくないためにも続けないと…というのが、私たちの使命だと思っています」。

写真:湯船の様子

4代目にバトンタッチされた町湯は、体をポカポカと温めてくれ、湯冷めしにくいと言われる「温まりの湯」。町湯の物語は、体だけでなく心も温めてくれそうです。

スポット情報(2023年12月22日現在)
スポット名 大阿蘇温泉
住所 熊本県阿蘇市内牧135
電話番号 0967-32-0157
営業時間 7:00〜21:00
料金 大人200円、小学生以下100円
※3歳以下無料
休み 不定休
設備 シャワー・アメニティなし


★内牧エリアの町湯マップはコチラでcheck!
(阿蘇温泉観光旅館協同組合HP)
https://onsen.aso.ne.jp/map/
 

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今村ゆきこ

熊本生まれ、熊本育ち。地元タウン誌「タンクマ・モコス」を経て独立。熊本愛強めのライター&エディター。熊本第一号の温泉ソムリエ&温泉ソムリエアンバサダーとして「くまもっと湯美人」を監修するなど、温泉愛もかなり強め。コロナ禍でソロキャンプの魅力に気づき、休日には愛犬と「温泉+キャンプ」を楽しむ日々を送る。

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