絵馬は美術的に価値があるだけでなく、歴史をひも解く上での資料としても大変価値があります。
私たちが住んでいる街の身近なところにある貴重な民俗文化財なのです。
ただ過去に熊本県内で行われた絵馬調査は数えるしかなく、全体的な調査は行われていませんでした。
熊本市立熊本博物館の考古学同好会では20周年記念の事業として、熊本市内にある絵馬の本格調査を2年かけて行い、
多くの貴重な絵馬を発見することができたそうです。
また、同時に新しい課題と文化財にとっての問題など、いろいろなことも見えてきたそうです。
今回は熊本市立熊本博物館の美濃口学芸員をお招きし、考古学同好会で行われた前市絵馬調査とその成果について
紹介して頂きました。
情報センターとしての博物館
これまで博物館というと、展示されているものを観るだけの場所と思われている方が多いのではないでしょうか。
博物館の場所さえ知らないという方もいらっしゃいます。これからの博物館はただ展示をし、観せるだけの場所ではなく、
皆さんの発見された新しい情報や勉強された情報を集め、それらの情報を博物館で知ることができるという、
情報センターの機能も求められつつあります。
一般市民が中心となって活動する考古学同好会
私どもの博物館には、アマチュアである一般市民の方たちが会員となっている考古学同好会というものがあります。
博物館が年間12回行っている考古学講座を初級編とするならば、この考古学同好会は中級・上級編で、講座を卒業された方が
入会されています。これまで考古学同好会では、講座の中では講師が一方的に講義をして、会員の方が勉強され楽しんで
頂いていましたが、同好会の発足20周年の節目に何か自分達で調査をして、形に残し社会に発信したいという能動的な取り組みを
することになりました。それが今回の「絵馬」調査です。
考古学同好会の初めての調査
絵馬の調査例として、他県では図録という形で一冊にまとめ、また展示会をし、絵馬の修正もちゃんと行われています。
それに対して我が熊本県の絵馬調査の例というのは、全県あげてのちゃんとした調査というのは今のところありません。
熊本市内はどうかといいますと、これも今まで網羅的な調査は全く前例がありませんでした。
今回調査した「絵馬」とは?
皆さん、絵馬と聞いて思い浮かべるのは何ですか?きっと合格祈願とかで目にする小さな絵馬を思い出されると思います。
これを「小絵馬」と私達は呼んでいます。それに比べ、たたみ1畳分とかある大きなものを「大絵馬」と呼んで、区別しています。
絵馬の起源でいうと、古代は生きた馬を奉納していました。その後、生きた馬から土の馬、やがて板に書いた一枚の
絵馬というものに変化していきます。今のところ発見された絵馬の最初は7世紀中頃のものなので、そこまで今の板に書いた
絵馬というのはさかのぼることになります。
市内の神社にあった「絵馬」
この度の絵馬調査で、絵馬の数は熊本市北部が一番多く、一番少なかったのは東部です。これは街の成り立ちや歴史に
関係していると思います。この調査では、「北岡神社の祇園祭」、「馬に乗っている加藤清正」や「白馬図」といったものから、
「牛若丸と弁慶」や「天の岩戸」といった全国的に有名なものを題材にした絵馬がありました。時代を色濃く反映している
ところでは、近代の「出征軍人」など戦争に関係する絵馬がみられます。また美術史の観点から見て大変貴重な、堅山南風の
書いたものや堅山南風の最初の先生である福島峰雲が書いた絵馬も発見されました。
身近にある貴重な民族文化財
北岡神社で発見した絵馬のなかに、一番収穫が大きく、大変興味深いものがありました。福島峰雲の「明治33年の白川大水害」
を描いた絵馬なのですが、水害の状況はもちろん、明治時代の熊本の人や街の雰囲気を知ることが出来る貴重なものです。
このように絵馬は、歴史を知る上でも、美術史を紐解く上でも貴重な研究資料です。
歴史や文化を守るのは市民
今回の「絵馬」調査をすることによって、私達が住んでいる身近なところに貴重な文化財があることがわかりました。
しかし、それを保存し、守るのは容易なことではありません。街の大切な文化財は近くに住んでいるわれわれ市民が、
少しでも意識をして守っていければと思います。
<博物館と同好会の御案内>
熊本市立熊本博物館
熊本市立熊本博物館考古学同好会
連絡先 096-324-3500
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