熊本は阿蘇に代表される独特な地質・地形を有しています。
そのことにあらためて目を向けるとき、熊本の風土やくらしの営みといったものにも従来とは違った視点が得られるかもしれません。
今回の寺子屋塾では地質コンサルタント会社の工藤伸氏に「熊本の大地(地質)と人々のくらし」と題してスライドを用いながらお話いただきました。
要旨をご紹介します。
地球の表層は、いくつもの薄い板のような「プレート」からなっています。
それは固定されたものでなく、1年間に数センチの速さで動いています。
日本列島でいえば、毎年5センチぐらいハワイが近づいています。
したがっていずれはハワイ旅行も身近なものになるかもしれません?
球磨村の球泉洞下の河床ではメガドロンという二枚貝の化石を見ることができます。
この貝は海洋の火山島上のラグーン(礁湖)に生息したとされています。
それがどうして球磨川で目にすることができるか不思議ですが、海洋プレートによって移動し、約1億5千万年前に古い日本にくっついたと考えられています。
地質学というと地味な、とっつきにくい領域と思われるかもしれません。
でもこうしてみると、なかなか壮大な自然の神秘といったものを感じるのではないでしょうか。
ここでは、熊本の地質に関する興味深い事柄のいくつかをご紹介してみることにしましょう。
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球泉洞 |
4回の大噴火でつくられた阿蘇
阿蘇カルデラ火山は熊本の地質を語る上で欠かせません。
カルデラとはポルトガル語で「大鍋」を意味しますが、この大鍋は約30~9万年前の4回の大規模火砕流の噴出によって形成された巨大陥没です。
南北約25㎞、東西約18㎞、まさに世界屈指の大きさです。
カルデラ底の平坦地の地下には軟弱な沖積層が厚さ80m以上分布しており、地層中花粉化石から最終氷期~縄文時代の寒冷気候から温暖気候への移り変わりを読み取ることが出来ます。
カルデラ形成後、その中に雨水が溜まって湖ができました。一角を蹴破り、湖を美田に変えたのは阿蘇神話のタケイワタツノミコト。
場所は立野火口瀬とされます。
阿蘇ならではのスケールの大きな話ですが、一帯は断層が多く分布しており、その断層運動で切れて出来た谷と考えられています。
噴火の痕跡はたとえば柱状摂理の奇勝からもうかがえます。立野大橋から見える白川右岸側にそれはあります。
柱状とは柱に似た形のことで、節理は岩石、特に火成岩が冷却凝固する時生じる断面が主に六角形の割れ目です。
阿蘇火砕流堆積物には溶結凝灰岩があります。
軟らかく加工しやすいため様々な用途に利用されました。
熊本が全国に誇る石橋もこの石材があったからにほかなりません。
宇土市で産出する馬門石は淡いピンク色をしており、古墳時代には近畿地方まで運ばれ、大王の石棺にも使われました。
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阿蘇山 |
カルデラ湖も存在した金峰山
金峰山は熊本市民にとって親しい存在です。
しかし、この山が阿蘇火山と同じ複式火山であることはあまり知られていないようです。
金峰山は一ノ岳とも呼ばれ、二ノ岳、三ノ岳をはじめとする外輪山に囲まれたカルデラ内にできた溶岩ドームです。
ただカルデラは阿蘇のような円形ではなく、四角の枡型をしているのが特徴です。
形成時期については約150~100万年前に外輪山が出来上がり、約15万年前に溶岩ドームである中央火口丘(テレビ塔のある一ノ岳)ができたと考えられています。
石神山、荒尾山、三淵山は側火山です。
カルデラ湖が存在したこともわかっています。
約50~40万年前で、木の葉化石を産する芳野層が堆積しているからです。
周辺には肥後邪馬渓と呼ばれる奇岩怪石の景勝地があります。
ここは一ノ岳を取り巻く外輪山の一部を形成した溶岩や凝灰角礫(れき)岩などから構成されています。
凝灰角礫岩は硬質な安産岩礫と軟質な凝灰岩からなるため、風雨による侵食を受けて独特の景観をつくりだしました。
また、宮本武蔵ゆかりの霊厳洞はこの凝灰角礫岩と溶岩との境界部にあいた洞窟です。
奇岩は県内各地に多数見られ、自然の造形の妙を楽しませてくれます。
山鹿市の不動岩はまさに岩塔といわれるにふさわしい偉容です。
岩質が全体的に固い礫岩であったため、周辺の地層より侵食に強く、取り残されて突出した形状となりました。
ほかにもペテログラフ(岩刻文字)が刻まれた小国町の押戸石、らくだの背を思わせる高森町のらくだ山、巨石文化の存在を語りかける姫戸町のドルメンなど興味を誘います。
ユニークさでは、苓北町坂瀬川西川内の海岸の「おっぱい岩」です。
なかなかリアルですが、専門的に言いますと「坂瀬川層の割れ目に沿って貫入したマグマが急冷してできた高湿緻密な岩脈の一部が、波浪により侵食されて大きな転石となったもの」と考えられます。
地下水は限りある資源
熊本の大きな特徴として豊かな地下水があります。
熊本市はその恩恵を100%受けています。
地下水の流れを見てみますと、阿蘇外輪山西側斜面や大地から地下に浸透した雨水は大津~菊陽~高遊原大地の地下に存在する地下水プールにいったん貯えられた後、水を通しやすい砥川溶岩を通って南西へ流下しています。
それらが地表に表れ出るところが、浮島の井寺湧水群や江津湖、水前寺などの水の名所です。
熊本市動植物園横では勢いよく噴き上げる自噴井戸を見ることができます。
一の宮町の阿蘇神社周辺も「わき水の里」です。
中央火口丘群の斜面や山麓には表流水がほとんど見られず、降水の大部分が地下に浸透しており、地下水は扇状地末端部の一の宮町付近で破圧水となり自噴しているのです。
地下水は熊本の大地の大いなる恵みです。ついつい尽きることがないように思ってしまいますが、限りある資源であることはいうまでもありません。
常に保全への取り組みを怠ってはならないと思います。
熊本の地質ということでは、やはり恐竜化石に触れないわけにはいかないでしょう。
御船町と御所浦町には白亜紀の地層が延びており、御船では日本発の発見となる肉食恐竜の歯の化石、御所浦では同じ歯化石でもこちらは国内最大級のものが発見され、太古のロマンの世界に誘ってくれます。
いずれにしても私たちの住む熊本の大地は多彩にして表情豊かです。ほんの一部の紹介しかできませんでしたが、これを機会に地質や地形といったものに関心をもっていただければ幸いです。
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