ふるさと寺子屋講師をお招きしてテーマに沿って語っていただく昔語り

No.128 「残しておきたい故郷の味」

講師/郷土料理研究家 松永 喜美子 氏

郷土料理には温もりや懐かしさがあります。しかしそれだけではありません。現代の食生活をより豊かにするための多くのヒントが隠されています。


今回の寺子屋塾では「残しておきたい故郷の味」をテーマに松永喜美子先生にお話して頂きました。それにしても熊本の郷土の味は多種多様。講演でも約30品目が取り上げられました。以下、その一部を紹介させて頂きます。
「健康で長生き」は誰しもの願いでしょう。そのためには「医食同源」という言葉がありますように食べ物が大事です。「故郷の味」には健康食としての先人の知恵や愛情がたっぷり込められています。

郷土料理に込められた知恵


 長洲町に「丸ずし」という郷土料理があります。コノシロの内臓とわたを取り、丸ごと酢で〆めて、お腹におからを詰めるなれずしの一種です。このおからというのが、わたしはとても素晴らしいと思うんです。

 以前、沖縄で豚の内臓料理を学んだことがありますが、おからと塩でよく水洗いされていました。そうして体に悪い脂肪酸を取り除くのです。素晴らしさはそれだけではありません。今、盛んに繊維食品を摂ることの大切さがいわれています。おからを使う丸ずしはその立派なお手本です。

 天草の崎津では同じ青魚の「さしつけ」をいただきました。刺身のしゃぶしゃぶのようなものです。サバがこんなにおいしいものかとびっくりしました。それ以上に感激したのが「サバのあら炊き」です。これには生姜(しょうが)とこんにゃくがたっぷり入っていました。生姜は毒消しの役目を、こんにゃくは超アルカリ食品で酸性になった血液を中和する働きがあります。すき焼きにこんにゃくを入れるのもそのためですが、郷土料理の知恵の一例をそこに見た思いがしました。

 生姜では「生姜の老梅煮」もおすすめです。スライスした生姜の辛味を適当にぬいて、刻んだ梅干しの果肉と黒砂糖を加え煮からめたものです。農繁期の小昼(休憩時)のお茶うけとして重宝されますが、焼酎の肴にも合うそうです。


祭りの思い出と共に


 豆類の料理となると、阿蘇地方の「具酢和え」は感心することばかりです。ポイントは白酢にあります。豆腐をすりつぶしながら酢でのばし、砂糖と薄口醤油で味をつけます。今でいう和風ドレッシングです。大皿に彩りよく盛った野菜類をこれにつけていただきます。

 見た目も豪華な野菜のお刺身を思わせ、法事や祭りのときの刺身代わりのご馳走として欠かせないものです。それにしても豆腐、酢、野菜と栄養的にもしっかりバランスがとれているのは見事というほかありません。

 ところで、祭りと故郷の味は結びついています。五和町の「ひじきご飯」がそうです。春のお大師さまの祭りの日、子どもたちは十円もって各家を回ります。すると、おにぎりにしたひじきご飯を始めはじき豆やよもぎ餅がもらえます。子ども時代の楽しい思い出と重なる味はいつまでも忘れることはないでしょう。



旬の素材はプロの味


 矢部地方は柚子(ゆず)の産地です。柚子は香りを楽しみ、味を引き立てるだけではありません。捨てるところがない"優等生"なのです。ここで簡単につくれる一品を紹介しましょう。タネだけ取った柚子を皮ごと千切りにし、それに砂糖をまぶします。それだけで「柚子香り」の出来上がり。お茶受けに最適です。

 「のびるの醤油漬け」も手軽につくれます。近くの山野で採ってきたのびるをざくざく切り、カツオ節と醤油で味をつけるだけ。料理のコツは旬の素材をつかうこと。そうすればプロの腕に負けません。

 熊本の味で特筆しておきたいのは水です。水質の良さに加えて弱アルカリの軟水が特徴です。これがカツオ節やコンブからだしをとるのに最適なのです。欧米は硬水でこちらは肉を煮るのに合っています。

 発酵食品が健康によいことは申すまでもありません。その代表選手が味噌だと、崇城大学で聞いてきました。「大豆が麹菌、乳酸菌、酵母菌の三大発酵菌によって熟成され、多種の旨味をもつ、日本の風土と知恵で出来た調味料である」  味噌汁はおふくろの味と結びつきやすく、故郷の味とつながっています。郷土料理に学び、創意工夫も楽しみながら健康で長生きできる食生活を送っていきましょう。