ふるさと寺子屋講師をお招きしてテーマに沿って語っていただく昔語り

No.125 「 日本刀雑学考 」

講師/刀匠(松永日本刀剣鍛錬所)  松永 源六郎 氏

1月3日、荒尾市の日本刀剣鍛錬所で日本刀の打ち初めが行われました。初春のスタートを飾る清々しい恒例の行事です。今回の講師はそのときの刀匠松永源六郎さん。現在、県内の刀匠は松永さんを含め五軒。「日本刀雑学考」と題して貴重なお話を伺いました。
要旨をご紹介します。


刀匠として独立して25年になります。この間、およそ千本ほどの日本刀をつくってきましたが、まだまだです。私の好きな言葉に「百錬自得」という言葉がありますが、そのことを日々自分に言い聞かせているところです。


伝統工芸にもっと関心を


日本刀の種別として太刀と大刀があります。どちらも長さ60㎝以上で、呼び方も同じ「たち」といいます。両者の違いは大刀が直刀、すなわち反りのない刀の様式を指し、太刀の方は湾刀、すなわち反りのある刀のことです。

熊本でというより日本で最古の文字と言われた75文字が刀の棟に象嵌された、菊水町の江田船山古墳から出土した銀象嵌銘大刀があります。熊本の刀剣の歴史の長さを物語っていますが、これは大刀という文字から察して、反りのない直刀となります。

平成9年のことになります。荒尾市に於いて第10回熊本県民文化祭が開催されました。このとき、現在国宝になっているこの大刀の複製に取り組みました。それもただ再現するだけではおもしろくないので、公募で小学6年生15名を集め、子供たちに砂鉄採集をしてもらい、その砂鉄を用い、古代製鉄法である「たたら製鉄法」でつくりました。

私が願ったのは、日本刀に限らず伝統工芸にもっともっと興味と関心をもってもらうことです。伝統の技というものはいったん途絶えると、復興は並大抵ではありません。協力してくれた小学生たちの良い思い出となり、大人になってからも忘れないでいてくれたらこんなうれしいことはありません。


意外に近い日本刀の世界


日本刀の様式は直刀から湾刀へと移行していきます。それは戦法が騎馬戦から徒士(かち)戦へと変わっていったことと関わっていますが、刀の製方法は技術的に容易ではありません。

しかし、そのことによって鍛刀技術が進歩していきました。「折れず、曲がらず、よく切れる」。日本刀のもつ優れた特質は、その機能性を超えて芸術性、精神性を深めていきました。

鑑賞法をよく聞かれます。これはなかなか難しく「あなたが気に入ったのが名刀」というほかないのですが、ポイントとしては次の三つが挙げられるでしょう。

  1. 地金のよさ

  2. 姿のよさ

  3. 刃文の妙味

でもこれも、なるべく多くの優れた刀を見て自分の目を養うことが一番です。それはつくる側の私達にしても変わりません。冒頭に「百錬自得」ということを申し上げましたが、経験から生まれる、いわゆる「勘」というものがとても大切です。

日本刀は日本人の思考や行動とも深くかかわっています。その歴史は日本民族の歴史と一体であるといっても過言ではないと思います。

そのよい例が、私たちが日頃何気なくしゃべっている言葉です。

「単刀直入」「切羽詰まる」「反りが合わない」「付け焼き刃」「鎬(しのぎ)を削る」「懐刀」「元の鞘に納まる」等々それこそ切りがありません。

折り紙付きという言葉も日本刀の鑑定から生まれた言葉です。あなたも折り紙付きの日本刀にふれてみてください。きっと心洗われる思いがすることでしょう。