国の伝統的工芸品に天草陶磁器が小代焼、肥後ぞうがんと共に指定されました。天草は良質で豊富な陶石の産地として知られていますが、今回の指定を好機に、「陶石の島」から「陶磁器の島」への取り組みが活発になってきました。そこで、天草陶磁振興協議会木山勝彦会長に「天草の陶磁器」の演題でお話ししていただきました。要旨をご紹介します。
「天下無双」折り紙つきの天草陶石
焼き物と聞いてまず思い浮かぶのは有田焼、瀬戸焼、清水焼などでしょう。歴史的にも1616年、李参平が有田で窯を開いたのがわが国の磁器の始まりとされています。では、2番目はどこでしょう。それは瀬戸でも清水でもなく、天草なのです。このことは焼き物の"通説"に反することであったらしく相当な物議をかもしました。しかし、最近の調査で江戸初期の1650年頃、陶磁器の製造が行われていたことが史料からも裏付けられました。
背景には豊富で良質な天草陶石の存在があります。砕きやすく形成しやすく、粘土を混ぜなくてもそのまま焼き上げるだけで美しい白磁に生まれ変わります。今で言う総合プロデューサー的な才覚があった江戸時代の蘭学者平賀源内は「天下無双」と折り紙をつけ、国策をもって天草を焼き物の大産地にすべきと、代官に建白書を提出しているほどです。
平賀源内が言うように、有名産地を見るとほとんどが大名を始め有力者の保護のもとに発展しています。それに対し天草は天草・島原の乱後は天領となり代官が次々と変わり、乱後の治安や復興に追われました。焼き物までは手が回らなかったと思われます。天草はいつしか、陶石を配給する島にとどまり、焼き物の産地としては停滞を余儀なくさせられました。
ただ、ここで尾張瀬戸の陶工加藤民吉のことにふれておかなければなりません。民吉は来島して高浜焼(天草町)の窯で修業します。はっきりいって技術を盗むためです。高浜焼当主は上田宜珍(よしうず)といって傑物でした。民吉の瀬戸復興への熱い思いに動かされ、望みをかなえてやります。それが「瀬戸物」と呼ばれ、焼き物の代名詞にまでなる瀬戸焼の隆盛へとつながっていったのでした。天草が"瀬戸焼発祥の地"といわれるゆえんであり、本渡市の東光寺に記念碑が建ち、瀬戸市長の感謝の辞がきざまれています。
天草・陶磁器街道の旅へ
天草の焼き物はこのほど国の伝統的工芸品の指定を頂きました。指定にはいろいろ条件があって、なかでも欠かせないのが「技法や技術に100年以上の歴史がある」ことです。これは先程も申したように有田焼に次ぐ歴史があります。
もう一つが「一定地域に少なくない数のものが製造している」です。天草陶磁振興協議会は現在10窯元で、およそ60人が生産にあたっています。ことに若手が育っていることが特徴で、伝統工芸につきものの後継者の心配がないことも好印象をもたれたようです。
言うまでもないことですが、指定はこれからの始まりに過ぎません。天草陶磁振興協議会のスタートも指定を目的にしたわけではありません。大げさでなく、世界一の陶石を持ちながら焼き物の里としては知名度がいま一つパッとしない現状を打破したい。そうすることで、天草全体の観光振興にもお役に立てるのではないか。すなわち「陶石の島」から「陶磁器の島」への展開を図ることがめざす道なのです。指定はその後押しと受けとめています。
ところで一般に、焼き物の産地といえば狭い地域に集まっています。これに対し「陶磁器の島」といっても天草はやはり広すぎます。10窯では寂しさは否めません。私としては天草が新の焼き物の産地となるには30の数が必要と考えています。長い道のりになるかも知れませんが、私は悲観しておりません。目下"予備軍"が2つほどあっていずれ私たちのメンバーに加わる予定です。少なくとも私の目の黒いうちには目標の半分、15窯元は実現すると確信しています。
天草はキリシタン哀史や南蛮文化、美しい夕日などなど旅情あふれる島です。私たちはここに新たな魅力、「陶磁器街道の旅」を付け加えたいとがんばっています。みなさんも天草へお出かけ頂き、焼き物めぐりの旅をお楽しみ下さい。
◇◇天草陶磁振興協議会◇◇
加 盟 窯 元 | T E L |
水の平焼(みずのだいらやき) 〔本渡市〕 | 0969-22-2440 |
丸尾焼(まるおやき) 〔本渡市〕 | 0969-23-9522 |
高浜焼 寿宝窯(たかはまやき じゅほうがま) 〔天草町〕 | 0969-42-1114 |
天草創磁 久窯(あまくさそうじ ひさしがま) 〔天草町〕 | 0969-42-0287 |
天草焼 小田床窯(あまくさやき こざとこがま) 〔天草町〕 | 0969-42-3419 |
陶房泰(とうぼうやす) 〔天草町〕 | 0969-42-0545 |
内田皿山焼(うちださらやまやき) 〔苓北町〕 | 0969-35-0222 |
息峠窯(いこいとうげがま) 〔五和町〕 | 0969-32-1525 |
陶丘工房(とうきゅうこうぼう) 〔五和町〕 | 0969-32-2502 |
蔵々窯(ぞうぞうがま) 〔大矢野町〕 | 0964-58-0975 |
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