ふるさと寺子屋講師をお招きしてテーマに沿って語っていただく昔語り

No.108 「 阿蘇観光と地域デザイン 」

講師/(財)阿蘇地域振興デザインセンター事務局長  坂元 英俊 氏

今回の講師は昨年10月全国公募で選ばれた阿蘇地域振興デザインセンターの坂元英俊事務局長です。阿蘇・白水村のご出身で、事務局長就任までは玉露の里として有名な福岡県八女郡星野村の(財)「星のふるさと」専務理事を務めていらっしゃいました。阿蘇での取り組みにあたっては「地域のことは地域に住んでいる人が一番知っています。地域では何気ないものでも私たちから見ればすばらしい宝がいっぱいありますから、それを引っ張りだして次の変化に結び付けていきたいですね」と語る坂元事務局長に、「阿蘇観光と地域デザイン」と題してお話いただきました。


スローな阿蘇づくり


阿蘇の放牧阿蘇地域振興デザインセンター(阿蘇DC)は県と阿蘇郡12町村で設立した財団です。仕事は地域づくり、観光振興、環境・景観の保存、情報発信の4つの柱が基本です。また、行政や民間と連携し、地域に直接アクセスしながら、柔軟な発想で21世紀の阿蘇をグランドデザインしていく役割も持っています。

阿蘇の魅力とは何でしょう。それは"素顔"に触れることだと私は思います。ですから単にクルマで移動するのではなく、歩いて行く、自転車で行くことがベターです。「スローな阿蘇づくり」。阿蘇DCの取り組みの一つです。

ゆっくり行くことで、たとえばこんな情景が想像されないでしょうか。通りがかりに自然の草花が美しく咲いています。ついつい「なんだかゆっくりしたいな」「ちょっと寄ってみたいな」という気持ちにさせられます。縁側にでも座ってお茶でも飲ませてもらえればうれしくなります。ついでに高菜漬けでも出していただいておばあちゃんの話でも聞かせてもらえれば最高です。阿蘇を理解する、阿蘇を楽しむということはそんなことではないかと思うのです。

そのための仕組みの一つとして阿蘇DCではこの秋、JRと一緒になってサイクルトレインを走らせます。汽車に自転車を乗せ、阿蘇のどこの駅でも降りられます。そこから自由に阿蘇を探す旅に出かけます。クルマからで決して見えてこない阿蘇の素顔が見えてくることでしょう。


国立公園内の生活圏


地域づくりで最も大事なことはそこに住む人が本気で素晴らしいと思える地域にしていくこと、そこに住むことが誇りになる地域づくりです。

阿蘇の場合は世界的なカルデラの中にあって、すぐ近くに火口があります。人々はその中で2万年以上も前から暮らし始めました。このことは火山灰層の中から見つかる多数の旧石器人の遺跡や遺物によって窺い知ることができますし、阿蘇開拓の神・健磐竜命の神話も阿蘇神社の国指定民俗文化財・農耕祭事に色濃く反映されています。これほどの悠久の歴史や根の深い文化を有した地域はそうありません。

また、阿蘇は熊本、大分、宮崎の水系の源になっており湧水が豊富です。人々は気軽にその水を飲んでいるわけですけれど地球規模で考えたとき、このことは極めて希有なことです。さらになによりも阿蘇は国立公園の中にあるということです。そこで日々の暮らしが営まれていることはいかに素晴らしく、誇らしいことか。これは地元の人があまり感じていないことですが、私は世界遺産の価値があると確信しています。少なくとも世界遺産にチャレンジできる資格を十分に持っています。


本来の魅力に磨きを


朝の阿蘇五岳自然、歴史、文化、伝統と申し分ない阿蘇ですが、それを生かすも殺すも、やはり人がポイントです。幸いにも阿蘇には"名人""達人"と呼ばれる人材が多士済々です。ただ、その方たちはどちらかといえば個人やグループが多く、阿蘇全体の取り組みになっていません。これらを結びつけるネットワークづくりも阿蘇DCの重要な役割です。そのベースとなる「阿蘇人塾」を設けました。これはどなたでも加入できますから関心のある方は阿蘇DCまでお問い合わせ下さい。(TEL:0967‐22‐4801)

阿蘇本来の魅力をアピールしていくには今後ますます知恵や仕組みが求められますが、サイクルトレインの運行のほかにも、この7月からは別府-湯布院-黒川-阿蘇内牧の温泉地を巡る「あそ・ゆふ高原号」のJR九州周遊バスも運行を開始しました。また、花の回廊づくりや国際級トレッキングコースの整備、阿蘇そばの里づくりなどのプロジェクトにも取り組んでいきます。温泉は質量とも折り紙付きで、女将さんの会も発足し、サービスにも一段と磨きがかかることでしょう。みなさんもぜひ阿蘇のファンになり、ゆっくりのんびり、素顔の阿蘇を探す旅にお出かけ下さい。

私は「阿蘇」はこう解釈しています。「あ」はすべての原点、「そ」は蘇生。つまり阿蘇は原点に返って復活する場所なのです。