ふるさと寺子屋講師をお招きしてテーマに沿って語っていただく昔語り

No.102 「 熊本再発見 」

講師/熊本県商工観光労働部長  守屋 克彦 氏

県観光連盟主催、県観光振興課後援「ふるさと寺子屋塾」熊本の歴史、文化を語り、知り、学び、伝えることを目的に毎月開催。県観光連盟発行「くまもとの旅」をテキストに、それぞれのテーマに沿った内容で、権威ある講師の先生を招きご教授いただいています。


今月のテーマは、「熊本再発見」です。


観光はすそ野の広い産業です。それだけに活性化策は"熊本の元気"に直接かかわってきます。今回は観光行政に長年携わってきた守屋克彦・熊本県商工観光労働部長をお招きし、「熊本再発見」と題してお話して頂きました。要旨をご紹介します。


一過性に終わらせないイベントを


県庁マンとしてさまざまな仕事に就きましたが、なかでも観光畑は一番長く、また私自身もっとも愛着が深い部署です。その体験を交えながら私なりの「熊本再発見」をお話してみたいと思います。

振り返って忘れられないのが昭和63年のデスティネーションキャンペーンです。これはJR6社とタイアップして行った広域観光キャンペーンで本四架橋、青函トンネルが開通し全国が一本のレールで結ばれたのを機会に日本一周鉄道の旅を実施し、熊本をPRしながら回ろうという大仕掛けな企画です。総距離4700km、2週間の日程で"踏破"しました。長丁場ですから失敗談も数々あります。出発して最初の駅が玉名駅でした。列車は正規のダイヤにない臨時編成ですから時間どおりというわけにはいきません。停車中ちょっとジュースを買いにいった人が積み残されるのっけからのハプニング。これがキャンペーンの輝かしい? 第一報となりました。そんな調子で前途多難な旅ではありましたが、各地ごとの特性や風土性に合わせた交流会や物産展、文化イベント、スポーツ大会などの多彩なプログラムで大成功を収めました。

この企画は単に汽車ぽっぽを走らせただけのものではありません。一過性に終わらせないというのが私の考えでした。例えば、徳島では本場の人形浄瑠璃と清和村の文楽の共演を行いました。このことが「清和文楽の里」づくりへの契機の一つとなりました。また仙台松島では当地の松島高校と天草の松島高校との間で姉妹提携がなされました。要するに後に残ったのです。そうした取り組みも評価されてこのキャンペーンはイベント大賞を頂きました。


地産地消は地元が納得してこそ


熊本観光について繰り返し言われる言葉があります。「素材は豊富だが、それを生かす工夫がない」。当たっているだけに悔しくてなりません。例を挙げれば阿蘇高菜です。私たちはその食べ方をいくつ知っているでしょう。漬物に高菜飯、あとはふりかけぐらいでしょう。これが東京の居酒屋では和風・中華風・フランス料理風と実に多種多様に利用されています。ちょっとぴりっとくるあの風味はバリエーションが実に豊かなのです。こうした試み、いい意味での郷土の味を化けさせるという工夫が足りません。

いま「地産地消」ということがしきりに提唱されています。しかし、日本一の植木スイカといいますが、みなさんのなかで本当のおいしい植木スイカを食べた人が何人いるでしょうか。いいものはみんな東京へ運ばれてしまっているのではありませんか。

地産地消は地元が本当の価値を知り、納得してこそ大きな力を持つと思います。観光面からいえば、県外のお客さんが熊本で「こんなおいしいスイカは初めて」と感激してこそ"日本一のスイカ"のブランドが確立されるのです。い草も日本一です。であれば、熊本に泊まったらその名にふさわしい新鮮な香りただよう畳の良さを実感してもらわないといけません。それがなによりのサービスであり、そのことはまた昨今きびしい状況にあるい草の消費拡大の人助にもなると思います。

近年、脚光を浴びている黒川温泉についてもちょっと触れておきます。急成長の秘密の1つは旅館・ホテル内での売店的なお土産の販売をやめたことです。かなりの収入ダウンになりますが、それよりも地域ぐるみの温泉地づくりの方が大事だということです。看板類の林立もやめました。要は黒川温泉への道順さえわかればいいのです。その代わり温泉街入口に大きな案内板を立て、旅館・ホテルの位置が一目でわかるようにしました。ご存知の「入湯手形」の評判も追い風になりました。こうした試みは日本を代表する老舗旅館・ホテルの経営者によるセミナーがきっかけでした。参加した黒川温泉の若手の皆さんはさっそく現地に飛び、教えを乞い、自らも学びながらいいものはどしどし取り入れました。観光に限ったことではありませんが、じっとしているだけでは何も生まれない。そのことをあらためて痛感した次第です。

私は夜の9時頃、街中にいるとホテルの窓に自然と目が行きます。明かりが少ないとさびしくなります。また、観光地の旅館に行くと下駄箱をついのぞいてしまいます。今は下駄箱も少なくなりましたが、ともあれここを見ると客層、年齢層、男女差などがわかります。これも長く観光行政に携わってきたからにほかなりません。

しかしそれも私事になりますが、この3月をもって定年です。「ふるさと寺子屋塾」については熊本の持つ多彩な魅力を掘り起こし、熊本の観光アップに大きく貢献して頂いております。最後にその講師を努めたことは大きな喜びであり、感謝の気持ちでいっぱいです。本日はありがとうございました。