県観光連盟主催、県観光振興課後援「ふるさと寺子屋塾」熊本の歴史、文化を語り、知り、学び、伝えることを目的に毎月開催。県観光連盟発行「くまもとの旅」をテキストに、それぞれのテーマに沿った内容で、権威ある講師の先生を招き教授していただいています。
今月のテーマは、「旅と映像」です。
いつもと少し趣向を変えて、今月は滝本先生の映像作品を鑑賞し、併せて撮影の苦心談や映像の手法について伺いました。滝本先生は四十年の映像づくりのキャリアがあり、8mmの映写機が普及する以前から独自の作品を構築されていました。「東雲楼」「神々の戯れ」「天まであがれ」「泰勝寺断章」、それぞれの作品に滝本先生の磨ぎ澄まされた感性が感じられ、熊本の史跡や風景が違った角度から見えてきます。
初めて見た歴史の舞台「東雲楼」
「なにをくよくよ川端柳 こがれて何としよ
水の流れと見て暮らす 東雲のストライキ
サトリハツライネ
テナコトオッシャイマシタカネ」
東雲節」で知られる二本木の東雲楼は、米の相場で巨万の富を得た中島茂七によって明治二十六年に建てられた遊郭です。破風造りの大玄関をくぐり、板間の広い階段を登ると、数百畳の大広間があり、この本屋のほかに二十五の別棟があったという豪壮な屋敷でした。盛時には、約九十人ほどの娼妓と約三十人の芸妓をそろえていたといいます。
滝本先生の作品は、一九六五年製作。東雲楼が解体されると聞き、急ぎ建物を撮影し、男と遊女の情念の物語を独特の映像技法で表現されています。東雲楼が壊され、当時を知る人が少なくなった今、この映像は貴重な歴史の資料です。
農村の力強さを長野岩戸神楽に託して「神々の戯れ」
長陽村の長野岩戸神楽を素材にして前衛的な手法で描いた作品。秋の収穫を祝い神楽を踊る村人たちのリズムが体に伝わってきます。阿蘇路を走るSLと伝統芸能の虎舞いが、阿蘇の農村のたくましさを相乗的に表現。ラストの阿蘇谷の雄大なシーンも印象的で余韻が残ります。滝本先生はこの作品で全国アマチュアコンテスト最高位の文部大臣賞を受賞されました。
大阿蘇全国凧上げ大会の熱気が伝わる「天まであがれ」
毎年、阿蘇で開催されている大阿蘇全国凧上げ大会。各地の伝統的な凧や創作凧が阿蘇の自然をバックに大空へ舞い上がります。その中にあって、王将の駒をかたどった凧だけが飛翔できず、破れかぶれで墜落の繰り返し。それでもあきらめきれない凧の持ち主の執念が伝わってきます。そのバックに村田英雄の「王将」が流れて、映像と音楽の妙に会場から笑いがこぼれました。
眠っていた歴史が甦る「泰勝寺断章」
細川家の菩提寺だった泰勝寺跡(立田自然公園)には、細川藩祖の幽斉公をはじめ、忠興公とガラシャ夫人の御廟があり、茶室仰松軒とビロードのような苔庭が幽玄の世界を醸し出しています。
滝本先生は、ここに通うこと五十回。想を練り、作品を信仰、戦乱、忠興とガラシャの夫人愛、ガラシャの最期によって構成。荒波に揺れる破船は、ガラシャの揺れる心を表現したもので、印象的です。最期に流れるアベ・マリアの調べは、天国へと導かれたガラシャを暗示させます。言葉では表現するのが難しい独創的な映像詩です。
滝本先生の映像を鑑賞した後、今まで何気なく見ていた熊本の風景が、奥深い魅力を伴って見えてくるようです。
会場からの声……
・熊本県観光振興課 樫山審議員
滝本先生のすばらしい作品を見せていただきました。凧上げの王将のシーンが良かったですね。地元にいると、つい見過ごしがちですが、熊本は観光の素材に恵まれていることを実感し、観光による地域の活性化のお役に立ちたいと思っています。
・宇土市 川上智子さん
大変きれいな映像で楽しく拝見しました。泰勝寺跡には、行ったことがありますが、今日の映像を見て、違った印象を受けました。また、訪ねてみたいと思っています。
・熊本市 橋本静恵さん
東雲楼の幻影的な映像技法は滝本先生の感性が表れているようです。「天まであがれ」の写実的な映像は親しみやすくて、おもしろく拝見しました。
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