県観光連盟主催、県観光振興課後援「ふるさと寺子屋塾」熊本の歴史、文化を語り、知り、学び、伝えることを目的に毎月開催。県観光連盟発行「くまもとの旅」をテキストに、それぞれのテーマに沿った内容で、権威ある講師の先生を招き教授していただいています。
今月のテーマは、「熊本城 ― ふれあいの径」です。
加藤清正によって築建された日本の三大名城「熊本城」。馴れ親しんだ城内にもかかわらず、見のがしていること、気付かないことは意外に多いもの。視点を変えて歩く、足をとめる、じっくりと見るこれだけでもさまざまな疑問が頭をもたげてきます。自分なりに想像するのも楽しいが、文献や資料で調べてみれば、更に新たな発見がでてくることと思います。今回は、その視点と発見による熊本城の新たな面々についてご講話頂きました。その要旨をご紹介します。
熊本城、新ウォッチング・ポイント
(1)下馬橋跡と天皇も通った行幸坂
行幸橋から坪井川の上流をのぞくと、橋の跡が見える。昔の南正面口。下馬橋の跡である。馬から降りて歩く規制になっていたため、下馬橋という名がつけられた。
また、行幸坂は天皇が通った道として知られる。以前は急な坂道だったが、明治35年、行幸の際に今のなだらかな形に埋められた。
(2)裏から表から見る--長塀
竹の丸からは長塀を支える支柱がたちならぶ姿が見える。支柱の穴にはぬき貫が通り、塀と固定されている。重要文化財・長塀の裏の顔。
また、坪井川をはさんで見る長塀の表は黒と白のコントラストが美しい。向こうには緑が彩る櫓、石垣が七重八重に見え、勇壮な天守閣が姿を現す。最高の構図である。
(3)清正の偉大な工夫--排水口
石垣の崩れを防ぎ、東西高低の急峻な地形を治めるため、清正は竹田丸から飯田丸へのルートに沿って排水口を造った。石垣だけでなく、足元の目立たない部分にも綿密な機能が施され、400年後の今も現役で活躍している。
(4)小石と石工
固く、隙間なく積まれた石垣の中、ごくたまに大きく欠けた部分があり、小石が詰め込まれている。清正がかかえていた優秀な石工集団の中にも一人や二人、石の目を間違えるような下っ端がいたのかもしれない。押しこまれた無数の小石からは当時の師弟の血と汗がよみがえってくる。それとともに、どこか人間らしいおかしみもかいまみせてくれる一コマである。
熊本城の?を探る
(1)地図石の謎
古くから「地図石」と呼ばれる、アンバランスな並び方がミステリアスな石。日本地図、城内の平面図、熊本城下町図などいろいろな説が話題を呼ぶ。旧藩時代の絵図には、数奇屋丸にお茶や能を鑑賞に来た賓客の待合所として載っているが、はっきりとしたことはまだ分からない。
(2)石段の謎
地蔵門跡から右折して天守閣へ向かう石段。標準よりかなり幅が広く、リズムが狂って歩きにくい。駕籠で登るためか?馬に乗って通るためか?または走って上がると都合がいい……などさまざまな推理が注目を集める。
(3)砲弾痕!?
闇(くらがり)門跡付近石垣に丸い穴が無数にあいている。かつては「西南戦争の砲弾の痕」とガイドされていたが……実はまっかなウソ。焼けおちた本丸御殿の火が飛火して、はぜたものである。ここからも当時の火災のすさまじさがうかがえる。
野外博物館を歩く
漱石をして「森の都」といわしめたくまもと。その言葉の背後には熊本城の広大な緑が必ずあったにちがいない。
市街地にこれほど大きな緑地帯が広がっているのは全国でも珍しい。豊富な緑は空気を浄化し、大気の温度を安定させ(市街地の気温よりも常に2℃低い)、騒音を吸収する。この静かで恵まれた環境の中には539種の植物、75種の野鳥、41種の蝶をはじめ、さまざまな動植物が生息している。まさに天然の総カラー図鑑である。
(1)秋の銀杏と春の大楠
「天守閣を越えると天変地異がおこる」と言われる大銀杏。銀杏は幹に水をためるため、明治10年の大火災でも焼け残った。真っ黒に焦げた木の裏側が当時の火事の激しさを物語っている。
樹齢800年の飯田丸と400年の竹の丸の大楠。台風で大被害をうけたが両者とも春のみずみずしい若葉は健在。その美しさは五高の寮歌にも「ソロモンの莫大な財産ですらかなわない」とうたわれたほどである。
(2)肥後六花園
肥後の6つの名花をあつめた肥後六花園。芍薬(しゃくやく)、菖蒲(しょうぶ)、朝顔、菊、山茶花(さざんか)、椿が季節ごとに美しい花をつけ、柔らかな匂いをあたりに漂わせる。
(3)野鳥
野鳥園を中心に、城内には珍しい野鳥がたくさん生息している。オジロビタキ、ヤツガシラなど、全国でもめったに見られない鳥も発見された。
(4)蝶
本来なら山の奥にのみ住むミヤマカラスアゲハ、沖縄でしか見られないメスアカムラサキなどの貴重な蝶も生息している。
この他にも新しい発見や小さな疑問はたくさんあるが、とりあえずポイントだけをあげてみた。皆さんも知的好奇心とやじうま根性でいろいろな謎に首をつっこんでみて下さい。そのみずみずしい視点が、熊本城の保全育成、環境保護へとつながってゆくのです。
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